パーキンソン病(PD)は、未だに治癒方法が確立されていない身体を衰弱させる神経疾患として知られていますが、その病診断のための信用可能な血液検査や臨床検査手法は未だ確立していないものの、近年ではコンピュータを用いたスクリーニングを採用した新たな研究により、疾患の早期発見と治療に対する新たな希望が生まれています。とりわけ、Nature Medicine誌に掲載された2022年のYangらによる研究においては、人工知能(AI)を使用することで夜間の呼吸パターンに基づきパーキンソン病を検出する方法が
パーキンソン病の症状は、他の神経系疾患と類似している場合があり、診断がより複雑で、各患者の病状がどの程度悪化するのかを判断するのも困難です。したがって、早期に疾患を検出できる診断方法が求められています。
そのため、現在、パーキンソン病の診断と治療には、AIによる新たな検査方法、従来の画像処理手法、進化を続けるウェアラブル端末とバーチャルリアリティ(VR)を用いた方法がすべて活用されています。
パーキンソン病とは何か?現在の診断環境
ではあるものの、日常的な動作や生活の質の維持は困難になります。
また、医師はパーキンソン病に関して患者による自己報告に頼らざるを得ません。運動障害はパーキンソン病の発症から数年後に生じるため、現在の方法による診断は進行したパーキンソン病の症例のみしか検出できない場合がしばしばあり、パーキンソン病のより早期での発見が望まれています。
医師は画像診断を用い、パーキンソン病の治療薬を処方することもあります。薬物治療による症状の改善は、疾患の存在を確認し、その他の要因の可能性を除外するためにも有効です。
現在、パーキンソン病の診断と治療のどちらにも不正確性があることは明らかであり、このことがパーキンソン病を健康被害が大きく捉えにくい疾患にしており、医師や患者を悩ませています。したがって、パーキンソン病の診断を始点としたより効果的な対処法を見つけることが重要なのです。
パーキンソン病の新診断方法が非常に興味深い
パーキンソン病のあらゆる側面に対して、最先端の技術が研究され続けています。画像診断や臨床検査などの医療技術だけでなく、2022年のYangらの研究のように、AIやバーチャルリアリティ、ウェアラブル端末など、広くトレンドとなっている分野にも希望を見出すようになってきています。
人工知能(AI)
人工知能(AI)は、通常人間の知能が必要とされる視覚認識、音声認識、意思決定、自然言語理解などのタスクを実行する高度なコンピュータ・システムです。アルゴリズム、機械学習、データを利用することによって、機械が自律的に学習、適応、進化できるようになり、これにより複雑な問題の解決、タスクの自動化、人間の能力の拡張が可能になります。
コンピュータは大量のデータを学習して「知的な」判断をすることができます。例えば、AIは多数の人々が歩いている様子のサンプルビデオを学習し、人間の歩き方が不自然であるか、何か問題の兆候があるかを評価することができます。このようなロジックに基づき、科学者や医師はAIを疾患検出のための強力なツールとして利用することができます。
パーキンソン病患者の場合は、呼吸や肺機能に変化が見られます。2022年のYangらの研究では、AIを使用したパーキンソン病の診断と、病気の進行度の判断の可能性を示しました。この研究で使用されたAIは、7,000人以上の患者の夜間の呼吸パターンの記録を用いてトレーニングされ、トレーニング後、AIは別の患者データセットでテストされています。
アルゴリズムは正確にパーキンソン病患者と健康な対照群を区別することに成功しており、パーキンソン病患者の80%以上を正確に検出することができました。AIは、健康な患者についても正確に検出しています。パーキンソン病患者と健康な対照群との区別は、AIの能力を測定する上で重要な指標であり、このアルゴリズムがパーキンソン病の重症度を正確に予測することもできた点も重要です。
成功の程度は異なるものの、パーキンソン病の診断にはこれまでにさまざまなコンピュータを用いた手法が使用されてきました。その中には、マイケル・J・フォックス財団の一部から資金提供を受けた手法も含まれています。この手法はPreciseDxと呼ばれ、患者の組織標本から、レビー小体というパーキンソン病の生物学的マーカーの存在をAIで調べるものです。
バイオマーカー
バイオマーカーとは、体内での正常または異常なプロセスを示す測定可能な指標であり、疾患の診断、進行の監視、治療効果の予測などに利用されます。近年、パーキンソン病の検出にバイオマーカーを使用することへの関心が高ま。
パーキンソン病のバイオマーカーの候補は数多くありますが、十分に研究されたものはごくわずかです。提唱されているものの中には、患者の血中の脂質の変化や、血液や脳液中に存在するパーキンソン病特有のタンパク質などがあります。
なお、新しいバイオマーカーの感度と特異性に関する高水準な標準のための確立されたプロトコルは、現在のところ存在せず、前述の例に加え、これらの研究領域に精力的に取り組む必要があります。
画像診断技術
パーキンソン病における画像診断技術には、磁気共鳴画像法(MRI)や陽電子放射断層撮影法(PET)など、従来の多くの脳画像診断技術があります。これらの手法により、医師は患者の脳内の分子的、構造的、機能的な変化を見ることができます。それらの変化の多くは、パーキンソン病を示す可能性があります。
パーキンソン病診断のための新たな画像診断の対象が「目」です。パーキンソン病の場合、初期段階で目に物理的な変化が生じる場合があり、網膜光干渉断層計(OCT)は痛みや侵襲性無しに、臨床医が患者の目の構造変化を見ることができます。新たなOCT技術により、パーキンソン病の早期診断と重症度予測の両方ができるようになる可能性があります。
ウェアラブル端末
ウェアラブル端末(ウェアラブル)は、スマートウォッチ、フィットネスバンド、ベルトなど、アクセサリーとして身につけることができる電子機器のカテゴリーに属しています。高度なセンサーと接続性を備え、運動のトラッキング、健康のモニタリング、コミュニケーションなどの機能を提供することができます。
これらの端末は、患者のデータを収集し、ワイヤレスで送信することに使うこともでき、血糖値、呼吸数、心拍数などの健康状態を検知することができます。精度については未知数ではあるものの、その進歩には目覚しいものがあります。
医師は、ウェアラブル端末から得られるデータとAIを組み合わせることで、パーキンソン病を診断できる可能性があります。2022年のYangらの研究では、呼吸ベルトと呼ばれるウェアラブル呼吸モニターが使用されました。腹部に装着するこのベルトは、備え付けられたセンサーで着者の呼吸に伴う腹部の上下を検知し、記録を行います。これにより患者から夜間の呼吸データを収集し、呼吸のスムーズさと質を測定することができます。呼吸パターンの変化はパーキンソン病と関連性が高く、病気の初期段階で生じるため、このデータを診断に利用することができるのです。
バーチャルリアリティー(VR)
バーチャルリアリティ(VR)とは、コンピュータによって生成された現実環境の視覚的(場合によっては聴覚的)シミュレーションであり、視聴者はその中に入って交流することができます。
現在、VR空間を利用するためには、ユーザーは、内部にスクリーンが備え付けられたヘルメットなどの特殊な機器を装着する必要があり、手袋や手の動きを追跡する携帯型コントローラーを装着することもあります。また、多くのVRセットでは、ユーザーの体の動きを追跡するためのカメラも使われます。
日常生活を模してカスタマイズされた仮想空間に入ることができ るVRは、早期かつ正確なパーキンソン病診断のためのもうひとつの有望な選択肢です。重要なのは、VR機器によって手や頭の動きを正確に計測できるということです。パーキンソン病患者には手や頭の震えがよく見られるため、VRはこうした問題のある挙動を検知するための有効なツールになるのです。
最近の報告によれば、画像診断の前にVRを用いたスクリーニングを行うことで、運動の変化を予測できることが示されました。パーキンソン病の評価にVRを用いた検査を用いた同様の研究でも、VRスクリーニングによってパーキンソン病患者の脳機能の変化を早期段階で検出できることが示されています。
また、VRはパーキンソン病の治療や療養にも役立つ可能性があります。VRを用いることで、制御された環境で日常的な活動を行うことができるため、パーキンソン病の治療に活用することができます。実際、VRトレーニングは、パーキンソン病患者にとって従来の動作トレーニングと同様に有効である可能性があることが研究で示唆されており、特にVRトレーニングは、パーキンソン病患者さんの手の機能とバランスを高めることが実証されています。
パーキンソン病診断の明るい未来
現在、パーキンソン病の診断は、臨床評価と神経学的検査に頼っています。疾患を確定することができる特定の検査は現状存在しないものの、現在進行中の研究では、バイオマーカー、画像診断技術、そしてYangらの研究に見られるように、AIやウェアラブル端末の利用可能性が模索されています。このような技術の数々は、より早く、より正確にパーキンソン病を発見するための希望となっています
医療技術と医療研究の継続的な進歩は、診断ツールや治療オプションの改善に対する期待を膨らませ、最終的にはパーキンソン病とともに生きる人々に好影響を与え、彼らのQOLの向上へとつながるのです。
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Ebony Gary, PhD, was the main author of this post. She is a post-doctoral research fellow in the Weiner Laboratory at The Wistar Institute (Philadelphia, PA, USA), where she is part of a team working on novel DNA vaccines and treatments for cancer and emerging infectious diseases. Ebony earned her doctorate from the Drexel University College of Medicine. Her research interests include vaccine design, viral pathogenesis, mucosal immunity, tolerance-breaking cancer immunotherapy approaches, and vaccine-induced immunity in the aged.
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Adam Goulston, PsyD, MBA, MS, MISD, ELS, planned and edited this post. Adam is a US-born, Japan-based science copywriter, editor, and marketer. He is a former in-house Senior Language Editor at Edanz and runs the scientific marketing company.
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