倫理審査の承認について • インフォームドコンセント • 患者の個人情報と守秘義務について

倫理審査の承認について

倫理的アプローチは、論文作成の最終段階にのみ必要なものではありません。研究者は、全ての研究段階において倫理基準に従わなければなりません。また、目標ジャーナルの倫理に関する条件にも従う必要があります。例えば、論文とカバーレターに倫理に関する声明(Ethical Statement)を明示する、等です。特に下記のヘルシンキ宣言ニュルンベルク綱領の2つについては、必ずよく理解しておきましょう。 

ヘルシンキ宣言

ヘルシンキ宣言では、人間を被験者とする研究について、計画と実施内容を研究計画書に明記せねばならない、としています。研究計画書は、独立した研究倫理委員会に提出し、承認を受ける必要があります。また2013年の改訂に従い、自分の研究が、法令および実施施設の定める人体を使った研究の倫理規定ならびにヘルシンキ宣言に従っていることを明確に述べる必要があります(例:「This study was approved by the Institutional Review Board of Baskent University and was conducted according to the principles of the Declaration of Helsinki.」)。

 

ヘルシンキ宣言については、後にさらに詳しく説明します。

 

ニュルンベルク綱領

ニュルンベルク綱領は、被験者の自発的な合意が臨床試験に必須であると述べています。インフォームドコンセントが得られるのは、被験者となる可能性がある人が、治療・治験についてよく説明を受け十分理解した、という状態です。説明する内容は、目的、方法、資金源、利権相反の可能性、研究者の所属機関、考えられるベネフィットとリスク、副作用、権利と責任、見込まれる研究成果とその普及の方法などです。

 

被験者は、拒否する権利、中止する権利についても説明を受けなければなりません。これは、被験者がその臨床試験に関する十分な説明を受け、自発的に参加を決めたことを書面で同意することを意味します。被験者のインフォームドコンセントの用紙は、法令や規定に従い保管しなければいけません。ジャーナルによっては、書面による同意取得の証拠や用紙そのものの提出を著者に求める場合もあります。 

 

ジャーナルによって、特有のインフォームドコンセント用紙の提出を求めるところもあれば(The BMJなど)、世界保健機関の用紙などの一般的なものを受理するところもあります。

 

 

インフォームドコンセント

倫理審査の承認とインフォームドコンセントは、人間、身体の臓器や組織、胎児や死体に関するすべての研究で行われる必要があります。 もしインフォームドコンセントを省略する場合は、その理由を説明する必要があります。バイオメディカル系ジャーナルのほどんどは、著者に、実験参加者、診療記録、人体の臓器や組織に関する研究が、国や機関の審査委員会や倫理委員会から承認されているかどうかと、患者の同意を得た方法を説明するように求めています。 

International Committee of Medical Journal Editors(ICMJE) の出版ガイドラインに従っているジャーナルは、倫理審査の承認やインフォームドコンセントについて報告することを求めています。これらのジャーナルからの要求に従わない場合は、論文はアクセプトされません。 

ただし、例外的にインフォームドコンセントが必要とされない事があります。例えば、患者を特定できないデータベースからのデータを使用した後ろ向き研究の場合は、審査委員会・倫理委員会が同意取得の必要性を免除します。そのほかまれな例外として、米国食品医薬品局(FDA)の規定に基づき、緊急の治療が必要な被験者を対象とする非常に限られた研究で、患者が生死の危機にあるためインフォームドコンセントの説明ができず、法的代理人もいない場合、などがあります。

ケースレポート(症例報告)や、ケースシリーズの場合も、正式な倫理的承認は必要ないかもしれません。それでも、患者が、研究に参加すること、学術ジャーナルに発表することに同意することは重要です。患者の権利を守るために、すべての倫理的事項はすべて考慮されていることを書面化する必要があります。 

もし、患者に連絡が取れないなど、ケースレポートの作成時に同意が得られない場合、大学の倫理承認委員に同意の免除を相談してみてください。公衆衛生上有用な情報で、患者が特定されないと判断されれば、免除される可能性があります。ただし、このような条件でジャーナルにアクセプトされるかどうかは、最終的にジャーナル編集者の判断となります。

 

患者の個人情報と守秘義務について

プライバシーの権利は、国際的またはその地方の法律や政策で守られており、患者の健康情報に関する守秘義務もこれに含まれます。医療コミュニケーションにおいて、患者のプライバシーの維持と保護は研究者の義務です。 したがって、患者を特定しうる下記などの情報は、削除する、または隠す必要があります。

  • 氏名
  • イニシャル
  • 検査の識別番号
  • レントゲン写真
  • その他の検査結果

患者が写真から特定されないことも重要です。例え患者の目元を隠しても、写真を見れば患者は簡単に特定できてしまいます。このような理由から、International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE) にもあるように、著者は患者に、個人を特定しうる情報が発表に使われることを伝える必要があります。このような情報が含まれることについて、論文が投稿される前に、患者の同意を得ましょう。

それほど明確でなくても、個人を特定できるものは、同じく避ける必要があります。例えば小さいコミュニティで発生した異常な症状や、珍しい症状で特定の日に発生した患者の症例などは、個人を特定しやすくします。不必要な詳細や、そのケースレポート・ケースシリーズに重要でない情報を記載しないことで、患者の個人情報は限られたものとしましょう。

守秘義務を守るために、撮影の前に下記のような簡単なことを実行しましょう。

  • 個人の特定につながる貴金属、宝石などを外してもらう
  • 髪が長い患者には、紙をまとめてもらう
  • 妊娠線やタトゥーなどが写りこまないようにする