ジャーナル・ガイドラインと倫理的要件

論文中または別の文書(例えばカバーレターにおいて)に適切な機関内倫理審査委員会の承認と患者の同意を記載する必要があるかどうかは、ジャーナルによって異なります。 しかしながら、著者がこれらの情報を論文内に含めることで、読者に倫理的基準に基づいていることを伝えることは、依然重要です。

機関内倫理審査委員会の承認と、研究への参加データの公開に対する患者の同意を報告することは重要です。そのことによって、最高レベルの科学的および倫理的基準が維持され、医学研究の過程における研究参加者を保護することになります。

患者のデータ

健康情報の機密性を含むプライバシーの権利は、国内外の多くの法律やポリシーによって保護されています。医学コミュニケーションの分野では、患者の機密性を維持し、保護することは研究者の義務です。 

従って、次のような患者の特定に繋がる情報は除く、あるいは隠す必要があります。

  • 名前
  • イニシャル
  • 試験報告の個人識別番号
  • X線画像
  • その他の評価報告

患者が画像や写真により特定されない様にすることも、非常に重要です。多くのケースで、写真の患者の目元が隠されているにも関わらず、個人が簡単に特定されてしまう場合があります。このことから、International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE)が明言しているように、著者は、出版によって患者の特定につながる写真や画像が公になる可能性があれば、そのことを患者に知らせなければいけません。患者は、その論文が投稿される前に、これらの情報が論文に含まれることに同意しなければなりません。

特定性が少ない識別子であっても、それもまた、避けるべきです。例えば、小規模のコミュニティで発生した稀なケースは、詳細な記述が与えられれば、読者は簡単に、その特定ができてしまうでしょう。珍しい症状の治療のために、特定の日に入院した患者の詳細情報によっても、簡単にその特定できる場合もあります。患者の個人データは、特定の割り当て、症例報告、ケースシリーズなどに関係しない不必要な詳細や情報を報告しないことで、制限する必要があります。

患者の情報を守るため、患者を撮影中に実施できるいくつかの方法をご紹介します:

  • 患者に、個人が特定される貴金属を外してもらう 
  • 髪の長い患者には、髪を後ろに引いて見えないようにしてもらう
  • 可能であれば、痣(あざ)やタトゥー(刺青)が映りこまないようにする

倫理組織

研究・学術出版に対するガイドラインの作成と遂行のため、多くの倫理組織が作られました。これらの倫理組織をよく知ることは、著者としての倫理的要件を深く理解することに繋がります。また、これらの組織は、著者が研究を論文出版をするうえで数多くの様々な有用情報をウェブサイト上で提供しています。 

ICMJE

International Committee of Medical Journal Editors (ICMJE) は、自己資金で運営されている、医療ジャーナル校正者の小さな組織で、ICMJE統一投稿規定(Recommendations for the Conduct, Reporting, Editing and Publication of Scholarly Work in Medical Journals)を作成しました。旧称は、生物医学雑誌への統一投稿規定で、1978年に作られました。 

これら一連の推奨事項は、ICMJE ジャーナルに投稿を希望する著者の利用を目的としています。推奨事項には、著者が正確で、科学的にしっかりした、バランスの良い、再生可能で明白な投稿論文を書くための、ベストプラクティス(最善慣行)の包括的レビューと、倫理基準が含まれています。 

多くのジャーナルは、そのような推奨事項の遂行と、それらを著者へのインストラクション(指示)の一部として取り込むことを指示しています。

COPE

The Committee on Publication Ethics (COPE)は、1997年に12,000人を超す学術ジャーナルのエディター及び、出版倫理に関心を寄せる個人により設立されました。評価の高いジャーナルのほとんどはCOPEのメンバーで、 全てのCOPEメンバーは、 ジャーナル編集者と出版社向けの行動規定(Code of Conduct for Journal Editors and Publishers)に従うことが期待されています。COPEは、出版倫理に関するあらゆる側面についてエディターと出版社にアドバイスすることに加えて、研究や出版におけるミスコンダクトに関するアドバイスも専門にしています。また、COPEはメンバーに、COPE フォーラムなどの場で、特殊なケースについて討論の場を設けたり、「 Code of Conduct and Best Practice Guidelines for Journal Editors and Publishers」の提供、 e-learningのコース、助成金や研究資金、年次セミナー、倫理監査ツールなど、数多くのサポートを行っています。

CROSSCHECK

意図的な出版のミスコンダクトを検出して防ぐため、CrossRef(出版社協会)によってCrossCheckが作られました。 CrossCheckは、エディターと出版社、研究者が出版前に投稿されたコンテンツに剽窃がないかスクリーニング出来るサービスです。iThenticate(アイセンティケイト)は、CrossCheckのサービスツールとして機能する剽窃検知ソフトウェアで、著者、研究者、及び学生はこのツールを使って、彼らの研究が侵害を犯していないかを確認、実証し、かつ、コンテンツの全てのソースが適切かつ十分に引用されているかを確認することが出来ます。

機関で利用する場合は、CrossCheckとiThenticateの利用には、ライセンスの購入が必要です。個人で利用する場合は、無料アカウントを作成後、ファイルをアップロードしてチェックするための「クレジット」を購入します。ソフトウェアは、Microsoft Word, Word XML, WordPerfect, PostScript, PDF, HTML, RTF, OpenOffice (ODT) やプレーン・テキスト等、数種類のファイルに対応していますが、ファイルのサイズやページ数は40 MBか2 MB(ローテキストの場合)未満で、ページ数も400ページ以下と制限があります。関連サービスとして、大学向けにテキストの類似チェックのためのTurnitin(ターンイットイン)があります。

GPP3

GPP3 (Good Publication Practice for Communicating Company Sponsored Medical Research: The GPP3 Guidelines)は、2003年に作られたGood Publication Practice (GPP)のガイドラインです。これらのガイドラインは、製薬会社が責任のある倫理的な方法で、臨床試験の出版を奨励する目的で作られました。GPP3は製薬会社やバイオテクノロジー企業、医療機器会社が資金を提供する研究に参加している著者や研究者を対象としており、査読付きの医学ジャーナルや、学会での発表の支援をする 専門のメディカルライターもそれに含まれます。

ヘルシンキ宣言

世界医師会は、1964年に人体実験を含む医学研究のための国際条例として、 ヘルシンキ宣言(Declaration of Helsinki) を、制定しました。最初に制定された後、7回改定され、最も新しいものは2013年に改定された物です。

ヘルシンキ宣言には、研究行為のあらゆる側面において規制する37の原則があります。考慮すべき2つの大きな点は、全ての関係者が実験のリスクと利益、代わりとなる実験の有無を理解し、インフォームドコンセントを与えられることにより、全ての患者が自由意志に基き、実験に参加すべきという点です。実験に関与していない、倫理委員会やIRB(研究倫理審査委員会)などの第三機関は、その研究デザインを確認した後に、実験プロトコルを承認すべきです。ヘルシンキ宣言のB-15の原則 は、研究は倫理委員会の配慮、コメント、ガイダンス、承認に向けて提出されるべきと強調しています。同宣言のB-30の原則では、著者は研究報告における完全性と正確性に責任を負うとしています。ガイドラインでは、ヘルシンキ宣言に従わず行われた研究は、出版を認めるべきではないと言っています。