プレーンランゲージサマリー vs. アブストラクト:2つの違いとは?

自分の研究について、科学者以外の人々に分かるように説明できますか?もしできないと答えた場合、それはなぜでしょう?

もちろん、複雑な科学を説明することは簡単ではありません。しかし、毎回そう言ってもいられないのではないでしょうか。

プレーンランゲージサマリー(PLS)*は、 科学的な詳細と、一般読者への幅広い理解とのギャップを埋めるための、簡略化されたリサーチアブストラクトです。PLSは、専門用語を使用せず、また専門家しか理解できないような詳細を説明するのではなく、研究内容を一般読者にも理解出来るように簡潔に説明することで、広く研究を伝える事が可能になります。
(*エダンズのサービスでは、「一般向けサマリー(PLS)」と表記)

それにより、研究のインパクトの向上にも期待できます。

また、政府、資金提供者、産業界、そして研究者自身も、科学的な知識を一般の人々が利用できるようにすることが急務であると考え始めています。

そしてそれを実現可能にするのが、PLSです。PLSは、論文の著者、科学、そして社会のそれぞれに貢献することができます。最初にまず、PLSと通常のアブストラクトの違いを理解すると良いでしょう。本ブログではPLSについて、次の内容にフォーカスして解説します。

What you’ll learn in this post

• プレーンランゲージサマリー(PLS)とは何か?

• PLSと、通常の論文のアブストラクトはどう違うか?

• PLSに対する誤解(シンプルと「簡略化」は違う)

• PLSを使うべき場面

• PLSを書くためのツールとコツ

プレーンランゲージサマリーの主な特徴

Plain Language Action and Information Network は、プレーンランゲージ、もしくは、プレーンライティングや、プレーンイングリッシュとも呼ばれるものを、「communication your audience can understand the first time they read or hear it.(人々が、初めて読んだり聞いたりしたときに理解可能なコミュニケーション)」と定義しています。

プレーンランゲージサマリー(PLS)は、科学的専門知識を持たない人や、科学の別の分野を専門とする人々が理解出来るよう、科学的研究とその結果を要約したものです。

PLSは、レイサマリー、プレーンイングリッシュサマリー、一般向けサマリー、 もしくは、レイアブストラクトと呼ばれることもあります。これらは一般的に同じものを指し、科学を分かりやすい言葉で説明すると言う点で、共通しています。

ジャーナル投稿や、助成金申請、またはプロジェクトレポートに、PLSを書く必要がある場合もあります。

プレーンランゲージサマリーの目的

PLSは、アブストラクトの「簡素化」版ではありません。 もしあなたのPLSがそうなっているとすれば、PLSに対する考え方や書き方が間違っていると言えます。

プレーン ≠ 簡素化

プレーン = 読者が読みやすい、明白、利用しやすい

PLSでは、「厳密に、どのように」ではなく、「なぜ」、「それがどうした」という、研究の意義にフォーカスを当て、より広域な中で、意味があるものと位置づけることを目指します。

なぜその研究を行ったのか、なぜその研究が重要だったのか、特定の科学の知識を持たない一般の人々に、それらを理解してもらうことが大切です。

プレーンランゲージサマリー vs アブストラクト:構造の違い

従来ののアブストラクトと同様に、PLSも通常は約200ワード以下で書かれます。また、アブストラクトと同じく、その構造は決められた1つのみではありませんが、一般的には次のように、同じ部分が同じ順序で並んでいます。

主題の概要 論文を理解するために、一般読者が知っておくべきことことはあるか。より広い科学的領域について説明する。また、研究の背景について説明する。
方法論と目的の概要 発見しようとしたものは何か。目的としていたものと、それにどのように取り組んだかを要約する。
主な結果 論文の重要な結論は何か。発見した内容の概要を、技術的な詳細なしに書く。
主なポイント 研究結果に注目すべき理由は何か。その研究が実社会にとって重要な理由や、関連性が何か述べる。

いかがでしょうか。確かに、PLSとアブストラクトはよく似ていますよね。アブストラクトとの違いは、発表方法と使用する言語にあります。

それらを区別するのは、同じ研究をする者同士で日々多くの時間を過ごしている研究者にとっては、難しいことかもしれません。

しかし、自分のしていること、ここでは自分の研究を、他の人が理解出来るように明確に説明できるようになれば、コミュニケーション、対話、そして共同研究の機会も広がるかもしれません。その観点からも、優れたPLSを書く事は、研究以外の面でもプラスになるのではないでしょうか。

アブストラクトとプレーンランゲージサマリーの違いを分析する

サイエンティフィックアブストラクトとPLSは、最終的には同じ情報を与えるものです。しかしその伝え方には違いがあります。

PLSの主な目的は、研究の詳細を理解しやすくすることです。アブストラクトもまた、科学分野の専門家以外でもある程度は理解できるように書くべきです。しかし同時に、アブストラクトは、正確で、専門分野特有の科学的な詳細を、専門用語を使って正確に伝える必要があるのです。

逆に、専門分野特有の専門用語が使われているPLSは、優れたPLSとは言えません。少なくともそれらの用語を、平易な言葉で説明する必要があります。

アブストラクトの仕様

アブストラクトには、構造化されているもの(小見出しを使用している)と、非構造化のもの(1つの長い段落になっている)があります。

小見出しのあるなしに関わらず、ほとんどの場合、次のような構造になっています。

  • Introduction/overview(序論/概要): なぜその研究を実施したか
  • Methods(方法): どのように実施したか
  • Results(結果): 発見は何か
  • Discussion and conclusion(考察と結論): なぜその発見が重要なのか

これは一般的なIMRaDのフォーマットで、エダンズでも様々なコンテンツでもご紹介しています。また、研究論文でも典型的なフォーマットとして踏襲されていて、信頼できる論文の構造といえるでしょう。

一部のジャーナル、特に数学や物理学などの分野では、完全な形のアブストラクトを用いず、100ワード程度のサマリーで済ませるものもあります。理由は、これらの研究が通常、目的を絞った具体的な研究であるためです。読者は、その論文が伝えていることの、本質的な概要以上のものを必要とはしないものです。

プレーンランゲージサマリーの仕様

PLSもまた、アブストラクトと同じような主要素をカバーしていますが、アブストラクトよりさらに分かりやすく書かれています。

PLSには専門用語を用いないか、あるいは簡単に定義できるもののみを使用します。例えば、専門用語で「hypoglycemia」と書くところを、「low blood glucose」(もしくは「low blood sugar」)と書くといった具合です。

先ほどご紹介したPLSで、著者は「offshore freshened groundwater」という用語をすぐに定義しています。読者はその用語の意味を推測できるかもしれませんが、PLSでは言葉の意味について、明白にする必要があります。

PLSは、従来のアブストラクトに相当する内容を提示し、その中心的な目的である、「幅広い読者への、効果的なコミュニケーションのための平易な言語」を使用しています。

PLSでは、アブストラクトよりさらに各文を短くし、簡潔にまとめるようにします。執筆の際に役立つ便利なツールは、下のリストを参考にしてください。

実は、アブストラクトや研究論文においても、平易な言語の仕様を目指すべきでしょう。科学はあいまいであったり、難しい専門用語で固める必要はないのです。研究のインパクトを高めたいのであれば、「もっと良い言い方はないか、もっと簡単で平易な言い方があるのではないか」と、常に考えるべきでしょう。もちろん、専門のエディターに依頼することも可能です。その場合、単なる言語の校正者や、英語ネイティブというだけではない、 きちんと専門の訓練を受けた、科学専門のエディターに依頼することで、学術的な言葉を、明瞭で読みやすいように修正することが可能になります。

残念ながら、査読者や研究者には、プレーンランゲージを、学術的ではない、もしくは、科学的ではないと見なす人も少なくありません。

もちろん、査読者に内容を納得してもらうことは大切です。査読者からの指摘を個人的なことだと捉えず、査読者と争う姿勢を見せないことです。なぜなら、出版されることが目的なのですから。それよりも、従来のアブストラクトの場合、内容が明瞭・明確であることがより大事なポイントであると覚えておくと良いでしょう。

プレーンランゲージサマリーのターゲットとなる読者

アブストラクトの読者は、著者と同じ専門分野を幅広くした他の研究者や査読者、ジャーナルの編集者、そしてジャーナリストも含まれます。また、似たような分野や、重なる分野の研究者も含まれます。まれに、単に好奇心旺盛な読者もいるかもしれません。

前述の通り、アブストラクトはアクセスしやすいものであるべきですが、研究の正確な要約こそが主な目的であることを覚えておきましょう。

plain language summary – Edanz

アブストラクトと違い、PLSは専門分野以外の人々を対象としています。分野の異なる人たちや、サイエンスジャーナリスト、教育者、学生、その他一般の読者がそれに当たります。これらの人々はすべて、あなたのインパクトを大きくする可能性を秘めています。

もしあなたのPLS(もしくは幅広い読者へのアピールという目的が同じのプレスリリース)が、ジャーナリストの目に留まれば、出版物や放映へと繋がり、世界へ向けた発信となるでしょう。しかしそれも、ジャーナリストがPLSを理解している場合にのみ可能になるのです。

まとめると、従来のアブストラクトは特有の分野の、あるいは一般的な科学者向けであり、PLSは適度に(科学について)教育を受けた、あらゆるタイプの読者向けです。

PLSの人気は、この10年でますます高まっています。ポッドキャストのホストの考えが、査読された科学者の実証的な発見よりも、はるかに大きな影響力を持つようになった現在の文化においては、PLSの人気の高まりは当然と言えるのではないでしょうか。

サイエンスをエクス”プレーン”(ex-PLAIN)しましょう!

最後に、PLSライティングのスキルを向上させるための、優れたツールや、推奨ツールのリストをご紹介します。プレスリリース、ソーシャルメディア、SEO対策、そして日常会話に至るまで、応用可能です。

平易な言語で書き、プレーンランゲージサマリーのスタイルで伝えるための便利なツール

ここでは、様々な目的や読者に合わせたPLSの書き方についての、役立つリソースをご紹介します。

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