今回は乳がん治療に関する最新の研究のひとつとして、Journal for ImmunoTherapy of Cancer 誌に2022年に掲載された論文「Combination of ultrasound-based mechanical disruption of tumor with immune checkpoint blockade modifies tumor microenvironment and augments systemic antitumor immunity (超音波を使用した腫瘍の機械的破壊と免疫チェックポイント阻害の組み合わせによる、腫瘍微小環境の変容と全身的な抗腫瘍免疫の増強)」をご紹介します。この論文は、抗腫瘍免疫応答を高めることを目的として機械式高強度焦点式超音波(Mechanical High-Intensity Focused Ultrasound:M-HIFU)の応用に焦点を当て、乳がんの外科的切除後の再発や転移に対する新たな解決策としての可能性を論じています。
この論文の研究チームは、M-HIFUが腫瘍の周辺環境を物理的に変化させ、T細胞ががん細胞を効果的に破壊する能力を高めることを発見しました。また、免疫チェックポイント阻害薬の一種であるPD-L1阻害薬を併用することで、より強力な抗がん作用を発揮すると主張しています。このようにM-HIFUと免疫チェックポイント阻害薬という二つのアプローチを組み合わせることにより、腫瘍の成長を抑制できるとするのがこの論文の根幹となる主張です。
この記事では、専門家がこの研究論文を読み解き、専門的な知見を交えてディスカッションを行った際の模様をお届けします。Cure Parkinson's NZの最高経営責任者であり、エダンズのシニアアドバイザーでもあるDaniel McGowan(分子神経科学博士)が司会を務め、エダンズのプロジェクトマネージャーであるAnthony Swain(分子生物学博士)、Ravi Patelピッツバーグ大学放射線腫瘍科助教授が加わり、対談が行われました。
腫瘍の免疫回避行動とがん治療における免疫応答の役割
対談が始まるにあたり、がんの腫瘍がどのように体内の免疫システムの監視を掻い潜っているのか、またがん治療における基本概念である「免疫応答」がどのような役割を果たしているのかについて専門家の方々に伺いました。
Daniel:確かに、今回の研究を読み解く上では、そもそも「どのように腫瘍が免疫監視を回避しているのか」について考えることが重要になりますね。私たちの体は腫瘍を発見し攻撃するように進化してきましたが、今回の研究で紹介されているように免疫応答から逃れられる腫瘍も存在します。
だからこそ、この研究はとてもエキサイティングなのです。この研究では、熱的アブレーションだけではなく、CD4⁺ T細胞とCD8⁺T細胞の腫瘍への浸潤も免疫応答を引き起こすことが示されています。また、遺伝子発現の研究も魅力的で、抗原提示とサイトカイン受容体の相互作用に関与する遺伝子の発現が上昇することもわかりました。
免疫という観点からこの研究の中で最も印象に残ったのは、免疫応の腫瘍の大きさに対する影響です。今回の研究ではHIFUによる処置を行わなかった群において腫瘍の大きさが縮小していることから、免疫応答がしっかりと働いていることがわかります。この研究は、がんに対する免疫応答の理解において、非常に有用な知見を提供していると言えるでしょう。
Ravi:Danielの言う通り、免疫の働きは非常に重要ですね。その免疫システムをもってしても厄介なのが、「がん」なんです。がん免疫系を回避することができ、それが最大の特徴の一つとなっています。エイズの流行時には腫瘍の発生率が高くなるように、免疫抑制とがんの間には明確な関係があることが知られていますし、カポジ肉腫のような特殊ながんは、CD4細胞が失われるにつれてより発症しやすくなることも、免疫とがんの関係を裏付けています。
実際、臓器拒絶反応を防ぐために免疫抑制剤を投与された臓器移植を受けた患者さんにも、同様のことが起こり得ます。特に皮膚癌など、免疫抑制と関連するがんの増加がしばしば見受けられますね。
がんがやっかいなのは、免疫システムを回避する方法をいくつも持っている点です。HLA抗原を隠すことで免疫システムの監視の目を掻い潜ることもできますし、免疫チェックポイントを発現させることで免疫応答を抑制することもできます。他にも、乳酸レベルを上昇させて正常なメタボロミクスを破壊することにより、腫瘍微小環境におけるT細胞の生存を妨げるような敵対的な代謝環境を作り上げる場合もあれば、そもそも抑制性サイトカインを放出する免疫抑制細胞を持っている可能性もあるんです。
ただ、幸運なことに免疫療法は飛躍的な発展を遂げており、現在ではさまざまながんの治療に利用されています。乳がんのように特定の分野では未だ課題があるものの、メラノーマ、皮膚がん、腎臓がん等の治療においては画期的な進歩が見られています!
M-HIFUと免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた研究の新規性
がん治療における免疫応答が果たす役割を確認した上で、2022年に今回発表された論文「Combination of ultrasound-based mechanical disruption of tumor with immune checkpoint blockade modifies tumor microenvironment and augments systemic antitumor immunity (超音波を使用した腫瘍の機械的破壊と免疫チェックポイント阻害の組み合わせによる、腫瘍微小環境の変容と全身的な抗腫瘍免疫の増強)」の内容へと移ります。はじめにこの研究の新規性について専門家の方々に伺いました。
Ravi:この研究で私が注目したのは、機械的アブレーション(mechanical ablation)という、一般的な治療法とは少し異なる方法をトリプルネガティブ乳がんに対して用いている点です。トリプルネガティブ乳がんは非常に手ごわく、若い女性が罹患することが多い疾患として知られていますが、通常、臨床現場では、治療にあたってラジオ波などの侵襲的な熱的アブレーション(thermal ablation)を使用します。しかし、この研究では、熱による凝固壊死を必ずしも引き起すわけではない超音波を用いたM-HIFUによる機械的破壊を選択しているのです。
この点は、従来の研究とはかなり異なるもので、私にとっては非常に興味深いものでした。加えて、M-HIFUの使用が免疫療法とどのように組み合わせられるかにも注目しています。
Daniel:私にとってもその点は本当に革新的に映りましたね。既存のアブレーション療法は、壊死(ネクローシス)による細胞死をもたらす一方で、腫瘍が再発することも少なくありません。なので、HIFUを使用し、音響キャビテーションによる剪断応力を用いた機械的破壊を選択することは、とても斬新なアプローチなんですよね。
M-HIFU単体の結果も非常に素晴らしいものでしたが、HIFUとPD-1療法を組み合わせたことが、この研究を真の意味での「ゲームチェンジャー」にしたと思います。これは、間違いなく有望な開発であり、がん治療におけるさらなるブレークスルーにつながる可能性が期待できますね!
Anthony:私にとっても、この研究は非常に興味深かったです!特に、HIFUが低侵襲であるという点が魅力的ですよね。確かにHIFUは熱応力や壊死によるダメージを与えるものの、他の方法と比べればほぼ間違いなく侵襲性が低いです。この論文で強調されている機械的な観点が斬新なのも、そのためです。
この研究では、細胞を単に破壊して壊死(ネクローシス)させるのではなく、HIFUを優しく当て音響キャビテーションを発生させることで、細胞のアポトーシス的応答を促進するとされています。これは細胞を開き、免疫チェックポイントを回避し、患者の体に腫瘍抗原をより体系的に認識させる方法であるという点で、従来の無理な細胞の破壊とは異なるんです。むしろ免疫システムを「目覚めさせる」ことに焦点を当てているといえるでしょう。
要するに、非常に斬新で革新的なアプローチであり、がん治療の見方やあり方を変えるアプローチになるかもしれないということです。
M-HIFUと免疫刺激の相乗的な相互作用と他の治療法との比較
研究の新規性を確認したところで、M-HIFUの使用と免疫療法の相乗効果についても、既存の治療法と比較を交えつつ、専門家の方々に討論していただきました。
Ravi:比較の対象として化学療法があげられますね。化学療法は、種類が多く特定の薬剤に依存することがあるものの、頻繁に使用されています。今回研究で取り上げられている標的療法にも色々な種類がありますが、化学療法の特徴の一つは、全身治療であるということですかね。一般的に転移性疾患の方に適しているとされています。
私自身は、放射線腫瘍医として放射線免疫療法を研究していますが、放射線を使用して局所的に免疫原性の細胞死を引き起こさせた上で、チェックポイント阻害を組み合わせることがよくあります。研究だけでなく臨床にも応用されていて、多くの臨床試験や前臨床試験が行われています。今回取り上げた研究は、局所療法によって細胞にダメージを与え、免疫チェックポイント阻害の効果を高めるという相乗効果が存在するという点で、放射線免疫療法と似たところがありますね。
Anthony: 私も同感です!この研究は、化学療法と免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせのような全身療法から始めるのではなく、より局所的なアプローチで免疫応答を刺激するという点に主眼が置かれているように思います。先ほどのお話に出てきた放射線療法はその点で効果的ですよね。今回の研究で使用されている熱的アブレーションやM-HIFUは、その放射線治療の侵襲性の問題を克服し、DNAへのダメージを抑制する可能性がある治療法であるという点で非常に画期的でした。
この論文は、M-HIFUが免疫応答を引き起こすことで、該当領域の樹状細胞の数を増やし、腫瘍関連マクロファージに影響を与えて腫瘍微小環境を変容させる可能性があることを示しています。いきなり全身的な免疫応答を刺激するのではなく、まず腫瘍を局所的に破壊してから、腫瘍の転移要素に対処できる可能性を持つ免疫応答を刺激しているのです。
ただし、この論文において、大きな腫瘍に対するこの方法を用いた効果は限定的であったと言及されている点は無視できません。したがって、この方法は、腫瘍が小さく、腫瘍を破壊した後に免疫応答によって全身への転移要素等に対処できるような場合における、放射線治療に伴うダメージを回避可能な低侵襲な治療戦略として考えるべきでしょうね。
研究の限界と改善に向けた論点
これまでの討論を聞いていると、今回取り上げた論文は素晴らしい研究であるかと思います。一方で、この研究の限界はあるのでしょうか?また、あるとすれば、今後の研究を進めていく上で、乗り越えなければならないハードルは何なのでしょうか?
Anthony:これまでの討論を聞いていると、今回取り上げた論文は素晴らしい研究であるかと思います。一方で、この研究の限界はあるのでしょうか?また、あるとすれば、今後の研究を進めていく上で、乗り越えなければならないハードルは何なのでしょうか?
免疫チェックポイントは、細胞が「自分の所属はここである、だから攻撃してはいけない」というシグナルを免疫細胞に送るためのIDバッジのような役割を果たします。問題は、がん細胞が、本来あるべき正常な細胞のように自身を見せることができる点です。これを解消することに役立つ、免疫チェックポイント阻害薬というのは本当に魅力的な治療法の一つであると思います。
今回取り上げた論文では、がん原性抗原を露出させる方法として、前立腺がんなど少数のがんに対してのみしか研究がされてこなかった「M-HIFU」という新たな種類のHIFUに着目していました。 この方法も今後注目される治療法になりそうですね。
しかし、この論文が動物モデルの研究であるという点には、十分に注意を払うべきです。サーマルHIFU(T-HIFU)の使用を支持する臨床データは複数ありますが、細胞を開き、樹状細胞の数を増やし、それによって免疫応答を刺激する機械的HIFU(M-HIFU)の使用を支持するデータは現状それほど多くありません。 これを踏まえると、この研究は、すぐに臨床に応用可能であるというよりは概念実証のようなものといったところでしょうか。要するに、今後のさらなる調査と臨床研究への移行が必要ということですね。
Ravi:確かに動物モデルであることは踏まえる必要がありますよね。私としてはも、この研究には気になる点が点いくつかあります。
まず、論文内で使用されていた腫瘍モデルは、私たち前臨床動物研究者から言わせていただくと、やや免疫原性の高いものであることが指摘できます。このことが直ちに研究結果を否定するわけではありませんが、マウスに免疫応答を起こさせるヒトHER2抗原が導入された腫瘍モデルが、ヒトの乳がん腫瘍のように振舞うわけではないことを忘れてはいけません。
今回の研究で見られた結果は、あくまでこのモデルでの細胞株とその免疫原性に特化したものなんです。免疫原性の低い細胞株であれば、少なくとも他の治療法では、研究内で観察されたようなパターンは通常見られません。今回の治療法は、こうした背景を考慮していないと思いますので、結果を解釈する上で動物モデルの限界を知っておくことは重要ですね。
私が興味を持ったもう一つの点は、著者らが論文で提示した最初の図についてです。研究チームは、無治療、T-HIFU治療のみ、M-HIFU治療のみの結果を比較していましたが、驚いたことに、T-HIFU治療はあまり腫瘍に影響を及ぼさなかったのです。腫瘍全体を60℃くらいに加熱すれば、離れた箇所にあるものは別として、少なくとも腫瘍に対する直接的な効果が現れるはずだと思うのですが、それが実証されていませんでした。
したがって、腫瘍全体に治療用の適切な照射がなされたのかについては、個人的に疑問が残っています。彼らの方法は必ずしも腫瘍全体に対する処置ではないと述べられていましたが、この点が私には引っかかるんですよね。併用療法が有効であることを示したとはいえ、併用療法でなくともHIFU単体の治療効果においても顕著な差が見られるんです。
Daniel:Anthonyも言っていたように、今回の研究結果から期待できることのひとつは、処置を行った部位から離れた箇所であっても、腫瘍の成長が抑えられ、免疫応答が促進され、生存率が向上するという原理が証明されたことです。しかし、次の研究へ進むには、すでに二人が議論しているように、この結果をヒトの患者に対して反映できるかという点を考えることが重要ですね。確かに、この治療法の興味深い点は、非侵襲的であることに加え、化学療法などの全身療法と比較して毒性が低い可能性があることです。とはいえ、この研究から貴重な知見を得ることはできても、これを臨床に応用するためには未だかなりのプロセスを要すると思います。
もちろん、さらに研究開発を進めれば、ヒトに対しても同様の結果が得られるようになると思います。しかし、現時点では、動物モデルの結果をヒトの患者に反映させることの難しさを認識し、慎重に進めていくことが求められているのではないですかね。
今後の研究の展望
専門家の方には、動物モデルのヒトに対する適用上の課題などをご指摘いただきました。その上で、将来の研究を進める上でカギとなるのは何なのか伺いました。
Ravi:この治療法の可能性をさらに高めるためには、適切な臨床試験をデザインすることが重要です。そのうちの一つのアプローチとして、局所療法におけるネオアジュバント試験の実施が考えられます。例えば、放射線治療では、手術前に放射線治療や免疫療法を実施しています。こうしたアプローチにより、患者の治療効果を直接評価できるようになるはずです。
私のセンターで行っているオープン試験では、皮膚がんの患者さんに免疫療法を先行的に実施し、その後に手術を行うことで治療効果を観察することができるのですが、この戦略はトリプルネガティブ乳がんのようなケースにも応用できますよね。手術前にこうした治療を行うことで、腫瘍を摘出した際に発生する免疫応答の評価を行える可能性があります。
私の挙げた例は、主に目に見える大きな腫瘍の治療についての議論ではあるものの、このような治療によって離れた場所への微小転移の発生を防止できることを示唆するデータも出ているんです。免疫応答を起こすことで全身への微小転移を防げる可能性があるため、この治療法の可能性は大きな臨床的価値を有していると思います。
ただ、その一方で、限界についても考慮しないといけません。例えば、超音波や音波には深度に関する問題があるのではないでしょうか?マウスの表面腫瘍と人間の深部にある腫瘍は、大きく異なる可能性がありますよね。したがって、臨床試験をデザインする際には、HIFUを適切に集束可能かどうかについても考慮に入れる必要があります。もしかすると、HIFUの適用は乳房内のようなアクセス可能な腫瘍に限定されてしまうかもしれませんね。Anthonyはどうですか?
Anthony: 私は、今回の研究をさらに発展させる上で、がんワクチンとの組み合わせに注目していますね。がんワクチンというのは、患者から免疫細胞を取り出し、がん細胞上に提示された特定の抗原に対して免疫応答を起こすように刺激したうえでその細胞を注射し、免疫応答を高める方法です。
今回の研究結果を受けて、免疫応答を自然に増幅させる低侵襲なM-HIFUを使用することにより、がんワクチンのような免疫療法の有効性を高められる可能性が見えてきたと思っています。
がんワクチンが外科的腫瘍切除や放射線治療などの他の治療とどのように組み合わされるかはまだ不明確なところもありますが、こうした免疫療法をより効果的にするための道を切り開いてくれるかもしれませんね。
医療技術の進歩に伴い、がん治療の侵襲性はどのように変化しているのでしょうか?
Ravi:私は患者さんに、「悲しいことに、副作用がまったくないがん治療というのは、まだ見つかっていません」とお伝えすることがよくあります。どのような治療においても大切なのは、患者さんにとってのメリットがコストやリスクを上回るかどうかということだと思っています。私は、期待できる恩恵は何なのか、潜在的なリスクは何なのかについて、患者さんとしっかりと話し合うようにしていますよ。
私たちは、治療のリスクをできるだけ低く抑えつつ、得られる便益をできるだけ高く維持することを目指しています。もちろん、人によってリスクをどの程度まで許容できるかは様々です。がんを治そうとすればリスクは高くなりますし、症状を和らげるだけであればリスクは低くなります。
この治療のリスクと便益の観点から言えば、個人的には、今回の研究の主題である機械的アブレーションを用いたとしても、本当に副作用がゼロなのかについては疑問に思っています。実験で用いられているマウスが不快感や不満を表現できないために、腫瘍に対して放射線を照射してもマウスは不快感を伝えられず、その結果ほとんどの副作用が観察されなかったのかもしれませんしね。
一方で、先ほど述べたように、この機械的なアプローチは、熱的アブレーションと比較して毒性が少ない可能性があるとは思っています。放射線と比較してどうなのかもについても興味がありますね。放射線はDNAに損傷を与えますが、私個人としては、機械的な刺激も細胞を殺すのではないかと考えています。実験結果からは、チェックポイント阻害薬と組み合わせなくとも、M-HIFU治療法単体から細胞死を確認できるので、おそらく剪断によって正常な組織の細胞にも影響を及ぼしているものと思われます。今回の研究からは、その正確な範囲に加え、これをどの程度コントロール可能なのかについては定かではありませんでした。
それでも、新しい治療の選択肢が必要であることは間違いなく、局所療法が果たすべき役割は大きいです。全身療法は、特に細胞毒性化学療法の場合、はるかに耐えるのが難しいことを考えればなおさらですね。
Anthony:私も、これらの治療法を「非侵襲的」と呼ぶのは、少し楽観的すぎると思いますね。どのような治療法にも、何らかの障害がつきもので、正直なところ、完全に非侵襲的な治療法というものは考えられません。頭痛に対処するためにパラセタモールを飲むという単純なことでさえ、パラセタモールが肝障害を引き起こす恐れがあるというリスクと切り離すことができませんしね。つまり、治療においては必ず何らかの介入が必要になるということです。
この研究の重要な目的は、M-HIFUをT-HIFUに代わる侵襲の少ない選択肢として紹介することだと思いますが、これを「非侵襲的」と表現するのは、いささかオーバーかもしれませんね。加えて、この研究はすべてマウスモデルに基づくものであり、これが大きなハードルとなっていることを忘れてはなりません。臨床データがなければ、この結果がヒトに対してどのように反映されるかについて断言することは難しいと思います。Raviが言っていたように、マウスは不快感を訴えることができないので、この研究で観察された結果には限界があると考えるのが妥当でしょう。
影響力の高い学術誌への掲載に向けた論文の構成や表現上のアドバイス
最後に、数々の研究論文を執筆してきた専門家の方々に、影響力の高いジャーナルに掲載されるような論文を書く上での注意点やアドバイスをいただきました。
Ravi:私が論文をレビューする際には、科学における厳密さを重視します。特に影響力のあるジャーナルでは、この研究で行われていたように複数の腫瘍モデルを使用することなどが大切だと思います。また、再現性も重要ですね。マウスモデルを使った免疫研究では、一度出た結果であっても、二度目は同じ結果が出ないことがあります。統計的な検出力と再現性を確保するためにも、2度の複製実験を実施するのがいいのではないでしょうか。
この研究のもう一つの良い点は、詳細な単一細胞解析を行っているところで、その包括的なテクニックにより読者に貴重なデータを提供してくれています。ただし、査読者から質問を招く可能性があるため、コントロールに関する記述は省略しないようにしましょう。
最後に、影響力のあるジャーナルへの掲載を目指す場合、査読者のコメントは建設的なものとして捉えてください。新たな臨床試験の実施要求等の非現実的な要求でない限り、査読者からさらなる研究を提案された場合、これは実行する価値のある研究である可能性があります。こうしたプロセスを踏むことで、データが強化され、より厳密かつ頑健な研究論文を発表することができるんです。私はポスドクの論文でこれを経験しましたが、1年分の研究を追加したことで、最終的な成果が大幅に改善されました。Anthonyはどう思います?
Anthony:私の仕事は臨床試験が中心ですから、このような非臨床試験には綿密な方法論に関するセクションが必要だと言えますね。その点、この論文では、フローサイトメトリーやシングルセルRNA解析のような観点について徹底的に説明されていて良いと思いました。
また、著者らは補足資料を効果的に活用し、読者に豊富なデータを提供しています。たとえ論文上に掲載されていなかったとしても、オンライン上の豊富な補足資料は素晴らしい資産だったと思います。
ひとつだけ細かい指摘をするとすれば、タイトルについてですかね。論文の掲載自体を妨げるものではないですが、この研究で使用しているのが乳がんモデルであることを明記することで、より関心のある細かな読者層を獲得できたかもしれません。
それ以外の点ではこの論文は素晴らしく、よくまとまっていて、読者への伝え方という点でも賞賛に値するものがあると思います。最後にもう一つ、非常に小さい指摘ではありますが、非治療、T-HIFU、M-HIFUのデータを提示する際に、各グラフに同じ記号を使用することでより読みやすくなっていたかもしれません。しかし、繰り返すようですが、全体として非常に優れた研究であったことは間違いないでしょう。Danielからアドバイスはありますか?
Daniel:この論文は、多くの補足図など豊富な図を掲載しており、間違いなく包括的でした。その点ではみなさんと同感です。一方で、結果が複雑である分、議論を要約した概念図や概念グラフがあれば、もっとわかりやすかったと思います。概念図や概念グラフを用いていれば、多くのジャーナルで科学的コミュニケーションのために使用されつつある、「知見を集約した1枚の要約図」を作成する上でも役立つかもしれませんし。
ただ、このような視覚的な要約が無いものの、これがこの論文の全体的な質を下げることはありませんね。私自身は、この論文が徹底的に研究されたものであり、本当に印象に残るものであったと感じています。
対談を振り返って
今回取り上げたM-HIFUと免疫チェックポイント阻害薬を用いた研究は、乳がんとの闘いおける本質的な洞察をもたらしましたと言えます。今回のパネルディスカッションでは、Daniel McGowan、Anthony Swainに加え、Ravi Patelピッツバーグ大学放射線腫瘍科助教授を専門家としてお招きし、この研究の新規性を分析していただいたほか、その刺激的な研究結果について改めて解説していただきました。また、この研究の論文で示された効果の評価いただいた上で、その限界を指摘し、今後の研究の可能性についても指摘していただいております。加えて、3人からいただいた影響力のあるジャーナルに掲載されるための戦略についても有益な情報だったのではないでしょうか。
パネリストからは、この研究がどのように進展するか、特に将来の臨床試験への応用を期待する声が相次ぎました。この研究では、主に乳がんを対象としていますが、他のがん種にも応用できる可能性があり、今後の研究の方向性として、膵臓がんなどの高密度な固形がんに対する有効性を検討することなどが期待されています。
新たな治療法や病気解明への道を切り開く研究者・著者の皆さま、エダンズが研究を全力でサポートします。
エダンズは、研究者・著者の皆様が取り組む分野の研究のギャップを見つけだし、論文の校正や、最適なジャーナル選択、そして研究の影響力を最大限に高めるまで、研究の全サイクルで一貫したサポートを提供します。多忙を極める研究者の皆様が直面するあらゆる問題に対して、エダンズの専門家チームが徹底した支援を行います。詳細は、 研究者向けサービスと英文校正をご覧いただき、ご不明な点等ございましたらこちらまで、お気軽にお問い合わせください。