学術論文を作成する際、プロジェクトに参加する研究者は、筆頭著者(ファーストオーサー)と責任著者 (コレスポンディングオーサー) を割り当てる必要があります。これらの役割を担う著者達は、時には対立することもあり、決定には時に難しい判断を伴います。また、それらの立場は(実際にそうであるか、認識されているかは別として)、研究者としてのステータスを示すことにも繋がります。
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ファースト・オーサーとコレスポンディング・オーサーは、理想的には研究中に、それぞれの立場の役割と意義を理解した上で、著者間の合意によって決定されます。そして著者の順番は、一般的にはそれぞれの貢献度を示します。
筆頭著者は第二著者よりも貢献度が高いとみなされ、以下、最後の著者に達するまで続きます。ただし、共同筆頭著者(co-first author)や共同の責任著者(co-corresponding author)などが存在する論文も多く存在します。
最後に挙げられた著者は、シニアオーサーまたは研究責任者とみなされ、名誉あるポジションです。また、リスト内の最低1人はコレスポンディングオーサーであり、出版プロセス(編集の手配、ジャーナルとの連絡、その他問い合わせなど)を調整し、連絡先を確認する必要があります。
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著者順の決定
著者の順番は、論文への貢献度を反映するものでなければなりません。また、立場に伴う信用と責任を意味するものでもあります。できるだけ早く、お茶やコーヒーを飲みながらリラックスした状態でよく話し合えば、争いなどの可能性を回避することに繋がります。
シニアオーサーの決定も少し難しい問題です。事前に、これらの役割と責任を正しく理解する必要があり、少なくとも誰が一番評価を得るかと言う観点だけで考えてはいけません。
プレプリントやポスター発表も含め、科学誌や査読付きジャーナルに掲載されることで、研究がより多くの人々の目に触れるようになり、発見や知見が世界中の専門家の目に触れることになるため、各役割を担う著者にとっては、研究者としての著者の評価を高めることになると言えます。
また、発表した論文のリストは、学位取得や昇進、科学者であれば研究継続のための資金獲得など、キャリアの目標達成にも繋がります。ファーストオーサーの論文の数も、ポジティブな指標として注目されるかもしれません。
論文の「著者」(オーサーシップを持つ者)は、その貢献度について一定の基準を満たしていなければならず、国際医学雑誌編集者委員会(ICJME)のガイドラインでは、著者資格として少なくとも次の条件を満たしている必要があるとされています。
- 研究に多大なる貢献をした人物
- 最終版の論文を承認した人物
- 発表された論文に対して責任を持つことができる人物
ただし、著者資格の最低要件は一般的に合意されていますが、特定の著者に与えられるクレジット・責任はそれほど明確ではなく、リスト上に示される順番によって著者に期待される役割が決まり、著者が論文にどのように貢献したかを読者に示すことが可能になります。
そこで、本ブログでは、これらのポジションの定義について、より詳しくご説明します。将来のキャリアやステータスに影響を与えるかもしれない、それぞれの著者の役割を決める大切な意思決定の際のプロセスに、ぜひお役立て下さい。
ファーストオーサー(筆頭著者)を定義するものとは?
ファーストオーサーは通常、その研究に最大の実用的・知的貢献をした人物です。
この人物は、特定の作業で共著者のサポートを受けることもありますが、データの取得と分析、および最終原稿の執筆において主に責任を負うことになります。
また、共同のファーストオーサーがいる場合もあります。これは、さまざまな専門分野を必要とするプロジェクトでよく見られ、研究者一人一人の貢献度を把握するのが難しい場合にも使用されます。2人または3人の著者を同等の貢献者として挙げることも可能です。
共同筆頭著者は、アスタリスクなどの記号 (例えば、「著者 A*、著者 B*、著者 C、著者 D.. 」) で表し、最初のページに記載されます。
しかし、その場合でも、引用の仕方によって、最初に挙げられた著者が最も注目されることになります。両方のファースト・オーサーを同等に評価するために、“Author A et al.”(「著者Aら」)ではなく、“Author A & Author B et al.”(「著者Aと著者Bら」)として論文を引用する方法があります。
ファーストオーサーの主な役割
- 研究に対して知的貢献する。研究の構想と計画に参加し、目的を定め、それらを達成するための方法論的アプローチをとる
- データを生成する。例えば、実験や文献レビューを行う、プログラミング コードを書くことなど
- 結果を分析する。データを伝えるためのグラフ、表、イラストを作成し、必要に応じて統計解析を行う
- 原稿を書いて編集する
- 論文の修正中、査読者からの質問に対応する
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コレスポンディングオーサー(責任著者)を定義するものとは?
コレスポンディングオーサーは、論文をまとめ、ジャーナルに投稿し、最終的にアクセプトされるまでの全プロセスに責任を持ちます。そして、当然ですが、責任著者として学術的オーサーシップの要件を満たしていなければなりません。
ICJMEは、コレスポンディングオーサーを、論文の投稿、査読、掲載の過程でジャーナルとのコミュニケーションに主な責任を持つ人物と定義しています。
この観点で、コレスポンディングオーサーは、ジャーナルのすべての管理要件が満たされていることを確認する責任もあります。例えば、倫理委員会の承認に関する文書、全著者のデータと署名、および利益相反(COI)に関する声明文の提出が含まれます。
これに伴い、出版倫理委員会(COPE)は、コレスポンディングオーサーはジャーナルが規定するすべての義務を果たす意思のある人であるべきだとしています(COPE Discussion Document, 2014)。
論文には、コレスポンディングオーサーの連絡先が記載されています。これにより、コレスポンディングオーサーが、その論文に関する問い合わせの代表者となるのです。したがって、責任あるコレスポンディングオーサーは、すぐに連絡が取れる状態でなければなりません。ジャーナルや読者とのコミュニケーションは、すべてタイムリーに行う必要があるからです。
また、英語で研究を発表することを希望した場合、校正サービスを利用しますが、その際にコレスポンディングオーサーがエディターとやり取りをするため、必要なコミュニケーションを取れる程度の英語力を有することも、大きなプラスとなります。
コレスポンディングオーサーの役割
- 論文が適切に構成され、ジャーナルの要件に適合していることを証明する。論文とその他のファイルをアップロードする
- 提出前に、すべての著者が論文の最終版を確認し、承認したことをチェックする。署名入りの同意書を入手する
- 論文に関連するすべてのコミュニケーションを担当する。全著者への通知(メール、査読のフィードバック、決定通知など)を配信する。
- すべての締め切りを守り、他の著者や編集者と効率的にコミュニケーションを取り、出版までのタイムスケジュールに従う。
- すべての編集および投稿ポリシーが遵守されていることを確認する
Note: コレスポンディング・オーサーの主な役割については一般的に知られていますが、関連する責任の一部はジャーナルによって異なる場合があります。本ブログと併せて、National Academy of Sciences(米国科学アカデミー)によって作成されたリストなどを参照して下さい。
シニアオーサーとは?
シニアオーサーは、知的貢献し、研究の計画や従うべきプロトコルを支える人です。特に、その研究分野のエキスパートであることが、シニアオーサーとなる要因の1つです。
また、シニアオーサーは、研究の財政的な原動力となることもあり、一般的に複数のプロジェクトを監督することもあります。そのため、「 principal investigator( 研究責任者)」とも呼ばれます。シニアオーサーは通常、出版プロセスにおいて幅広い経験を持ち、著者リストの最後に名前が掲載されます。
実際、シニアオーサーは研究室のリーダーや、責任者が担うのが一般的であり、これまでの仕事ぶりから、この栄誉を獲得したと考えられます。
保証人とは?
論文の著者のうち1名を保証人として記載することを求めるジャーナルもあります。保証人とは、
- 論文の全体的な整合性(倫理、データ処理、結果の報告、研究の実施を含む)に対して公式な責任を負う
- 論文の主な問い合わせ窓口ではない
- 論文のすべての記述が真実であることを確認する
保証人は、コレスポンディング・オーサーと同一人物であっても、別の著者でも構いません。
論文の研究責任者やシニアオーサーは、すでに研究監督に責任を持つことになるため、保証人になることを推奨されることが多いですが、必須ではありません。
ファーストオーサーとコレスポンディングオーサーは、兼務可能か?
答えはYesです。ファーストオーサーが論文のコレスポンディングオーサーになることもでき、実際によくあることと言えます。
ここで注意するべきなのは、著者がコレスポンディングオーサーであることと、年功序列を同一視している場合です。シニアオーサーは、前述のようにあらゆる資質を備えているため、コレスポンディングオーサーとみなされることが多く見受けられます。
しかし、コレスポンディングオーサーは、編集者や読者とのコミュニケーションにのみ責任があるため、ジャーナル編集者は通常、これを管理上の役割と見なしています。したがって、コレスポンディングオーサーは必ずしも立場が一番上の著者である必要はないのです。
この役割にはある程度の責任が伴いますが、それが「特別な印」になるわけではありません。また、ほとんどのシニアオーサーは、出版のレビュープロセス中のクエリに応答する時間が少なくなる可能性があり、その後も、読者からの問い合わせに答える時間があまりないかもしれません。
したがって、ファーストオーサーには、コレスポンディングオーサーとしての役割を果たすことも期待されます。研究に一貫して携わり、投稿・出版のプロセスを踏むノウハウがある限り、それに当てはまります。
この役割として、論文の英語を改善するために、どの英文校正サービスを利用するか、判断することも挙げられます。また、ジャーナルや一般読者とのやり取りも担い、それらのコミュニケーション全般における経験値に繋がります。
誰がどの役割を果たすか決める方法とは?どのような倫理的な問題が考えられるのか?
ファーストオーサーとコレスポンディングオーサーが同一人物でない場合でも、責任の一部を分担することが可能です。
例えば、コレスポンディングオーサーは、ファーストオーサーのデータ分析を手伝い、一方でファーストオーサーはコレスポンディングオーサーが提出するための書類の準備を手伝うことができます。
他の著者についても同様です。誰がどのような役割を担うかは、事前に明確に話し合い、きちんと定義しておく必要があります。理想的には、研究に携わる研究者は定期的に会議を開き、責任を明確にし、実験などの状況を報告することです。新しい共著者が加わるかもしれませんし、他の著者が途中で関与を終える可能性もあります。このような計画を立てることは、学術的な著者資格に関する対立を防ぎ、問題を回避するのに役立ちます(Albert & Wager, 2009)。
対立が起こる理由はさまざまです(COPEのウェブサイトには実例が多数掲載されています)。ファーストオーサーは最も権威があり、生産性の重要な尺度であるため、この立場に関する権利の争いは、特に起こりやすい問題です。これは、例えば2人の著者が、どちらも自分が最も貢献したと主張している場合などに起こります。この問題を解決するには、共同の筆頭著者(ファーストオーサーシップ)を提案するか、二人の貢献を数値化し、どちらが先になるべきかを決めるシステムを利用することが有効です。
また、シニアオーサーが、ファーストオーサーを希望している場合にも、意見の相違が生じることがあります。例えば、ファーストオーサーとしてより多くの、そしてより影響力のある出版物が必要になる場合が、それに当たります。あるいは、論文を実際に執筆した著者が、ファーストオーサーの権利を主張することもあります。
逆に、誰がコレスポンディングオーサーになるかについての論争は、滅多に起こりません。それは、役割として、名前と連絡先が記載されていること以外に、特別な区別がないからです。しかし、それでもこの役割を望むシニアオーサーも存在するため、時折、争いが起こることもあるので、注意が必要です。
理想的には、コレスポンディングオーサーは他の著者の中から決定されるべきです。その立場や役割を共有し、例えば、ファーストオーサーとシニアオーサーの両方が、共同のコレスポンディングオーサーになることも可能です。
すべての研究者は、共同研究などを通して自由に疑問を投げかけ、明確化を求めるべきと言えます。そのためには、ぜひ、この様な文章をガイダンスとして用意することを検討して下さい (COPE Discussion Document, 2014; Guidelines on Authorship and Acknowledgement, n.d.)。
最後に、著者は出版前に再集合して責任者リストを確認し、文書の最終版を作成する必要があります。これには、各関係者の貢献の種類と程度に関する詳細な情報が含まれます。貢献の種類については、Contributor Roles Taxonomy (CRediT) のウェブサイトを参照して下さい(McNutt et al.、2018)。貢献度を定量化するために、さまざまなシステムが文献に記載されています(例えばAPAはスコアカードを提案しています。詳しくは、こちらをご覧ください。)
現在、いくつかのジャーナルが各著者の貢献に関する情報を要求し、公開していることを考えると、このような文書は不可欠と言えます。そして、それは、科学出版のシステムの透明性を向上させる基準を作るのにも役立ち、結果として、倫理的な懸念や著者に関する論争を大幅に減らすことが可能になります。
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References
Albert, T., & Wager, E. (2009). How to handle authorship disputes: A guide for new researchers. Committee on Publication Ethics. https://doi.org/10.24318/cope.2018.1.1
COPE Discussion Document: Authorship. (2014). Committee on Publication Ethics. https://doi.org/10.24318/cope.2019.3.3
Guidelines on Authorship and Acknowledgement. (n.d.). Retrieved from https://research.fas.harvard.edu/links/guidelines-authorship-and-acknowledgement
McNutt, M. K., Bradford, M., Drazen, J. M., Hanson, B., Howard, B., Jamieson, K. H., Kiermer, V., Marcus, E., Pope, B. K., Schekman, R., Swaminathan, S., Stang, P. J., & Verma, I. M. (2018). Transparency in authors’ contributions and responsibilities to promote integrity in scientific publication. Proceedings of the National Academy of Sciences, 115(11), 2557-2560. https://doi.org/10.1073/pnas.1715374115
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