研究者であれば誰でも、できるだけ多くの論文を、できるだけ早く、できるだけ良いジャーナルで発表したいと考えているのではないでしょうか?
毎年発表する論文の数と質を表す投稿率(publication rate)を上げれば知名度が上がり、被引用数も増えていきます。では、ユニークで価値のある研究をしながら投稿率を上げるには具体的に何をすればよいでしょうか?
論文のアウトプットと引用率を最大化するためには、以下の要素が大切です。
- 投稿を目指す理由を把握する
- より幅広いプロジェクトを選ぶ
- 適切なジャーナルを選ぶ
- ジャーナル編集者とコミュニケーションをとり、早期投稿を目指す
- 人間関係を築き、協力する
特に最後の要素は研究者が一般的に考えることではありませんが、だからこそ非常に効果的なテクニックなのです。この記事では、それぞれの要素に着目し、論文投稿率の向上を実現するためのコツを解説します。
研究を投稿したい理由を知る
研究者は、業務上必要な研究、あるいは個人的に関心のある研究を行って、論文を投稿します。これらの研究にはそれぞれ異なる期限があります。研究者の中には、より多く、より早く論文を投稿する必要があると考え、大きなプレッシャーを受ける方もいるはずです。そういった方は、投稿が必要な理由と、その論文に本当に期待されていることを知ることが大切になります。
研究機関側の理由
研究機関にはある程度のノルマがあり、研究成果を出すまでの期限があります。したがって、その機関が具体的にどのような機関であるかを確認したり、アドバイザーに相談したりすることで、前もって計画を立てることが大切になります。研究機関としてもノルマがあるので、思ったほど要件が厳しくない場合もあります。
投稿を目指す個人側の理由
研究者個人としての理由としては、その分野を発展させたいとか、競争相手に勝つためにもっと投稿したい、といったものがあるでしょう。研究者である以上競争心を持つのは自然なことです。
しかし、もしその競争心が常に論文を投稿し続けなければならないというプレッシャーを与え続けるだけなら、この競争心は無意味であることを自覚する必要があります。
投稿を望むキャリア関連の理由
キャリアの浅い研究者は、修士号や博士号を授与されるために、インパクトのあるジャーナル(特に英語のジャーナル)に論文を掲載することが求められる場合もあります。また、キャリアの初期段階にある研究者(ポスドクや新入研究者)は、次の研究助成金の獲得、終身在職権の獲得や申請、昇進の可能性を高めるために、自分の研究を発表することが必要となる人も多いでしょう。
一流の大学は採用活動を行う際、研究成果を非常に注意深く見ます。特に、ジャーナルの評価や引用の指標に基づくインパクト・ファクター(IF)の高い投稿物や、過去の助成金の調達額を重視する傾向があります。
従って、シニアレベルの研究者は、執筆や投稿よりも、むしろマネジメントに重点を置くことが多々あります。研究助成金で資金を調達した論文の共著者として登場することもありますが、実際に論文を執筆し、査読プロセスで指揮を執ったのは、チームの若手研究者であることも多いです。
こうしたキャリアに関する投稿理由は、より多くの資金や名声を得たい、理想を言えば、世界を変えるような科学研究をより多く行いたい、というより高次な目標へと研究者を駆り立ててくれます。
投稿する理由が分かれば、自分の進むべき道を見つけ、それに集中することができます。
そしてその理由を念頭に置けば、目標に合った最善の形でアウトプットを選択することができるのです。
研究発表率を最大化するために適切なテーマを選ぶ
研究の関心が狭く、研究発表の場が限られているトピックを選んでいては、早い周期の論文投稿率を維持することはできません。論文投稿率を上げるには、研究網を広げる必要があります。ただし、網を広げすぎると取りたいものも取れなくなってしまいます。その加減には最大限注意を払う必要があるでしょう。
適切なトピックは、狭すぎず、広すぎず
「適切なトピック」とは、興味深く、話題性があり、関心のある幅広い問題に取り組むリサーチクエスチョンのことです。自分の専門分野で研究している研究者以外にもアピールできるようなテーマである必要があります。
一歩下がって全体像を見渡し、関心のある研究課題を学際的な読者にとっても興味深くなるような、より広い文脈の中に位置づけると良いでしょう。
その際、研究の具体的な詳細にはあまり目を向けないようにするのがコツです。
その研究の成果が、より大きな、より一般的に興味深い問いにどのように関連しているかを考えられるとさらに効果的です。
「広すぎず、狭すぎず」を常に意識することで最適なトピックを見つけることができます。
広すぎる | 狭すぎる | ちょうどいい(最適) |
---|---|---|
上層大気の反応性中間体の化学 | 対流圏におけるオゾン反応 | オゾン中間体と気候温暖化 |
小児ナルコレプシーの負の転帰 | ナルコレプシー2型10歳児の罹患負荷におけるカタプレキシー症状の役割 | 小児ナルコレプシー患者の臨床的特徴と疾病負担 |
フィンチの営巣習性 | ナイチンゲール島最南端の崖上におけるネソスピザ文鳥のペアの営巣行動 | 南大西洋における地上営巣フィンチの保全的意味合い |
科学教師の評価に性格検査を用いる | ソマリア農村部における25歳の生物学教師の配置におけるDiSC評価の適合性 | アフリカの農村部のSTEM教師の配置におけるDiSC評価の適合性 |
この表における研究は、特定の研究テーマを扱いやすいレベルまでニッチ化し、かつ隣接・交差する可能性のある専門分野との相互参照を意識したトピック設計になっています。
例えば、河川の汚染を研究する上で、特定の水域の特定の汚染物質に焦点を当てたいと考えたとします。確かに、これによってその水域に関する正確なデータは得られるか可能性がありますが、それをより大きな意味と結びつけるには不十分です。より大きな生態系レベルでの重要性や、現在の気候危機における世界的な類似システムのモデルとしての重要性はどうなのかなどを考える必要があります。
同じ研究を行うにしても、他の汚染物質や異なる気候での研究など、他の研究との比較対照をより包括的に行うことが重要になります。これにより、気候研究や社会科学との接点を見つけることができるのです。
詳細に関する重要なポイント
セクションでは、研究をより広範にアピールすることで論文投稿率を上げる方法について解説します。もちろん、広範なアピールだけが重要で特異性の高い研究が重要ではないという意味ではありません。特異性のある研究は評価されます。しかし、このセクションではさらに一歩踏み込んで、優れた研究を非常にタイムリーかつ重要なジャーナルで発表するための方法について詳細に解説します。
ここでのポイントは「投稿スピードの必要性は常に考える」ことです。
適切なジャーナルを選択する
どのジャーナルを選択するかというのも、どれだけ論文が早く投稿されるかのカギとなります。ジャーナルによって投稿スピードは異なり、中には競争が激しいジャーナルもあります。また研究者によっては、スピードを重視しすぎるあまり、IFの低いジャーナルを選択している人もいるかもしれません。そのような方は、自分の研究を安売りしてないかをもう一度考え、さらに権威のあるジャーナルに掲載できるかを考え直してみるのも良いでしょう。
研究中、あるいは投稿準備が整う前に投稿に適したジャーナルのスコープを確認しておくのがベストです。
ジャーナルの選択については、ギャレス・ダイク博士のビデオもご参照ください。
迅速な投稿にこだわるのであれば、投稿しようとしているジャーナルが通常どれくらいのスピードで投稿しているかを把握することが大切です。多くの場合、ジャーナルの著者ガイダンスに詳細が記載されています。
投稿スピードを把握する
ジャーナルのウェブサイトには通常、提出からオンライン投稿までの期間が表示されています。
平均的な期間は、四半期刊行誌で2~3ヶ月、隔年刊行誌(年2回)で3~5ヶ月です。ただし、雑誌によってこの期間には大きなばらつきがあるので、あくまで目安となります。
PNASの報告によると、論文の提出から最初の決定まで平均10日、提出から全査読の決定まで平均45日、提出から投稿まで平均6.4ヶ月とされています。ただし、PNASは権威があり、直接投稿の内14.6%しか採用されない点は考慮するべきでしょう。実際はここまで長くかからないジャーナルも多くあります。
IF4.634で学際的ジャーナルとして高く評価されているSocial Science & Medicineは、査読、修正、必要な法的審査、オンライン投稿、最終的な印刷投稿に、およそ3ヶ月から5ヶ月は必要であると報告しています。
評価の高いオープンアクセスジャーナルのPLOS ONEは、状況によって異なるものの、基本的には提出から最初の決定まで約43日かかるとしています。
投稿までのスピードを追求するならば、名声は妥協しなければならない場合もあります。しかし、本当に投稿を迫られていない限りは自身を安売りせず、より評判の高いジャーナルを目指すのが良いでしょう。
また、提出前にジャーナルに問い合わせることで、ライバルの一歩先を行くこともできます。次のセクションではこの点について解説します。
ジャーナル編集者が何を求めているかを聞き、彼らが求めているものを提供する
ジャーナルの編集者は多忙なため、基本的に短期間で迅速に決断を下さなければなりません。迅速に投稿を行いたいなら、常に彼らを見込み客として念頭に置く必要があります。
マーケティング担当者のように考え、自身のニーズよりも顧客(つまり編集者)のニーズを考えることを優先することが投稿への近道です。
ジャーナルの編集者は、売上が伸び、引用が増え、ジャーナルの名声が高まるような魅力的な記事を求めています。
したがって、特定層の読者にとって魅力的でありつつ、他の読者も引き込むことができるような記事を欲しているのです。
ジャーナルが求めている論文は、ジャーナルの対象範囲、新規性、その分野(そしておそらく他の分野)での活発な研究への貢献、倫理性、そして読みやすさと明確な科学的言語によるコミュニケーションの基準に適合する研究です。
ほとんどの研究者は、自分の研究を提出してから投稿が上手くいくことを望みます。しかし、その前にジャーナルの編集部に連絡を取ることができれば、彼らライバルと差をつけることができるのです。
提出前の問い合わせを利用する
提出前問い合わせを効果的に使って、実際の論文提出の前に編集者に論文を売り込むことが非常に大切です。
最終的な提出回数は1回までですが(複数回の提出は非倫理的で危険とみなされます)、提出前の問い合わせメールの数に制限はありません。
まだ研究を書き上げている最中でも、始める前でも、さまざまなジャーナルの編集者に問い合わせを送ることができます。
特に、必要なデータが用意されており、それを分析して主要な結果がわかっているなら、編集者とコミュニケーションを取り始めるのに絶好のタイミングであるといえます。研究の焦点、目的、結果の概要を簡単に伝え、投稿への興味があるかどうかを確認すると良いでしょう。
これは、言わば求人に応募する前に、応募先の企業の人とつながるようなものです。損することは絶対にありませんし、自身を知ってもらうことで今後の研究活動に好影響を与えてくれることもあります。
執筆して投稿する前に編集者から好意的な返事をもらえれば、チャンスです。このように先手を打つことで、投稿へのプロセスをスピードアップさせることができます。
もちろん、回転率の高いジャーナルを選び、ジャーナルの編集者からゴーサインを得て論文を提出したとしても、投稿プロセスには自分ではどうすることもできない部分もあります。そのような場合でも、少しでも早く物事を進めようと努力することはできます。
投稿までの待ち時間を短縮する
提出した論文は、投稿システムや査読で「立ち往生」してしまう場合もあります。そのような場合は、編集者とコミュニケーションをとりましょう。これも論文提出者としての権利の範囲内です。
研究によれば、著者は自分の論文がジャーナルに掲載されるまで非常に長い間待たされることがあり、場合によっては数年間待たされることもあります。
よくある理由としては、以下のものがあります:
- 編集者がまだ査読者を探している
- 査読が遅い
- 招待を受けた査読者がいない
- 編集者が忘れてしまった、または横道にそれた
- 投稿がシステム内で失われた
こうした理由から生じる投稿の遅れは研究者としてのキャリアを妨げるものですから、待つのではなく積極的にコミュニケーションを取ることで解消を試みましょう。
一般的には、6~8週間待っても返信がない場合は、編集者に丁寧なメールを書き、状況の更新をお願いするのが良いです。
ジャーナルをチェックする
投稿の遅れとなっている原因を確認するために手紙を書くときは、礼儀正しくし、編集者に何か「お返し」をすると良いです。
例えば、査読者の候補を追加で提案することなどが「お返し」にあたります。編集者が適切な査読者を見つけるのに苦労していることが遅れの一般的な原因であるため、新たな査読者候補という「お返し」を編集者に渡しつつ状況を確認するのです。
原稿を提出する際に査読者の提案も一緒に提出することで、このような事態を未然に防ぐこともできます。PLOS ONEでは、査読者の選定を義務付けています。これは、ジャーナルが受け取る膨大な量の投稿を管理する上で非常に役に立ちます。
不安や怒りを感じていても、ジャーナル編集者との連絡では決してそれを表に出してはいけません。修正依頼に対する回答レターを送るときも同様です。
他の研究者と幅広く協働する
投稿スピードという観点から大局的に見れば、1つの研究が投稿されることに固執するのは良くありません。研究へのアプローチ全体を改善するように動くべきです。その点では、他の研究者との共同研究も視野に入れると良いかもしれません。
最も成功している研究者たちは、共同研究を「秘密の呪文」として利用し、投稿率を高めています。
共同研究を行うには、世界中の研究者、研究機関、さらには産業界にも働きかけ、自分の研究について話すことが大切です。まずは、研究計画から始めると良いでしょう。
研究計画を共有し、ネットワークを広げる
“実験を実施する前に実験計画について同僚や上司と頻繁かつ徹底的に議論すれば、実験デザインの問題や見落としている欠点を誰かが見つけてくれるかもしれません。すべての研究に対してこのように取り組めば、無駄なデータの用意や実験の失敗の確率は減るはずです。“
— ビシャール・ゴー(博士)、エダンズ著者指導コンサルタント
まずはアブストラクトを共有し、タイトルを共有してみてください。皆さんが取り組んでいることを伝えれば、共同研究が生まれる可能性があります。その後データを共有する準備をし、常にギブ・アンド・テイクを意識することが大切です。
これがオープンリサーチの核心なのです。この種の研究は、研究者にとっても科学の発展にとっても非常に有益です。COVID-19ワクチンをかつてないスピードで製造することができたのも、共同研究があってこそでした。
共同研究は実際のところ、論文投稿率を最大化する最善の方法と言えます。より多くの人と仕事をすればするほど、より多くの論文を執筆し、共著することができるということが研究結果からも明らかになっています。
これは戦略的思考であり、短期的な結果よりも中長期的な視点に立ったものです。銀行にお金を預けて利子をもらうようなものだと考えると良いでしょう。
共同研究で投稿が増えた!
“私の投稿物の多くは共同研究によるものです。多くの研究者と協力していたので、私の論文が掲載されると私自身のネットワークだけでなく、より大きなネットワークからも引用されました。より多くの人たちが私の研究を知ってくれたことで、ますます多くの共同研究を行い、より多くの論文を発表することができました。“
— ギャレス・ダイク(博士)
最後に
いかがでしたか?
研究投稿率を最大化することは、すべての研究者にとって重要な目標になります。
何故その必要があるのかを知り、研究内容やジャーナルを適切に選択し、長期的には共同研究に踏み切ることで、研究投稿率は飛躍的に良くなります。関心がある方は、是非お試しください!