Quicktakes エピソード021
心血管予防に効果があるされているアスピリン。一方でその副作用については、さらなる検証が必要であると考えられてきました。このエピソードでは、アスピリンの副作用が高齢者に与える影響について報告した最新の論文を、エダンズが誇る血液病理学のエキスパート、マリア博士が解説する様子をお届けします。マリア博士による治験デザインに関するTipsも必見です!
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大人気!血液病理学者のマリア博士が、アスピリンの副作用に関する最新研究を通して、優れた治験デザインについて語る充実の4分間にご期待ください。
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解説のポイント
- ■ 低用量アスピリンの副作用とは?
- ■ アスピリン処方による脳卒中と出血リスクとは?
- ■ 最新研究が臨床現場に与えるインパクトとは?
- ■ 治験デザインのためのコツとは?
この研究の背景は?
低用量アスピリンの副作用とは?高齢者への影響は?
アスピリンは心血管疾患の一次および二次予防に広く用いられています。この薬はサイクロオキシゲナーゼ1を阻害し、血小板上のトロンボキサンA2を不可逆的にブロックすることで、血小板凝集を防ぎます。しかし、アスピリンには、出血傾向という重要な副作用があることが指摘されてきました。
特に、脳卒中の一次予防におけるアスピリンの有効性は、70歳未満の人々を対象としたメタ分析や主要な試験から示唆されています。しかし、高齢者は転倒による頭部外傷や小血管の脆弱性が増すため、出血リスクが高まると考えられます。
これらの考慮から、長期間の毎日の低用量アスピリンが高齢者における脳卒中や脳内出血の発生にどのような影響を及ぼすかという問題が提起されています。そこで、今回ご紹介する研究「 Low-Dose Aspirin and the Risk of Stroke and Intracerebral Bleeding in Healthy Older People: Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial 」は、ASPREE研究と呼ばれる既存研究の二次分析を行うことで、この問題の解明に取り組んでいます。
エキサイティングな研究手法・結果とは?
大規模な治験デザインでアスピリンの効果を測定したASPREE研究
この研究の基となったASPREE研究は、オーストラリアやアメリカに住む70歳以上の地域社会に居住する高齢者を対象とした、前向き、無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験です。
参加者は70歳以上で症状のある心血管疾患がない高齢者であり、2010年から2014年の間に19,114人の参加者が集まりました。彼らはアスピリン群とプラセボ群の2つのグループに無作為に割り当てられ、9,500人以上がそれぞれのグループに参加しました。
この研究の主要なアウトカムは、身体障害や認知症のない生存期間として設定されており、したがって脳卒中と出血イベントの発生率は、主要アウトカムのエンドポインとして設定されていました。
治験デザインのサマリー
期間 | 2010年-2014年 |
対象 | 70歳以上で心血管疾患が無い人 |
試験タイプ |
前向き試験 無作為化試験 二重盲検試験(プラセボvs低用量アスピリン) |
アウトカム | 無障害生存期間 |
エンドポイント | 脳卒中・出血イベントの発生 |
二次分析の結果、アスピリンには出血の副作用が確認される
この研究を二次分析した結果、アスピリンを服用している参加者のうち1.5%で虚血性脳卒中が発生し、プラセボを服用している参加者の1.7%と比較して減少が見られましたが、この差に統計的な優位性は確認されませんでした。また、年齢、性別、喫煙、糖尿病、脂質異常症、虚弱度、高血圧、国によるアスピリンの効果にも有意な差はありませんでした。
同様に、出血性脳卒中の発生率は0.5%で、プラセボ群の0.4%であり、こちらも統計的に有意な差はありませんでした。
しかし、アスピリンを服用した個人の脳卒中とその他の脳内出血の合計発生率は1.1%であり、これはプラセボを服用した人々の0.8%と比較して統計的に有意に高かったことが確認されました。
したがって、この二次分析の主要な発見は、虚血性脳卒中の小さな非有意な減少を上回る脳内出血イベントの増加でした。これらのデータは、健康な高齢者における脳卒中の一次予防としての低用量アスピリンの処方に対する慎重なアプローチを示唆しています。
研究結果のサマリー
虚血性脳卒中の発生率 | プラセボ・アスピリン間で有意差なし |
出血性脳卒中の発生率 | プラセボ・アスピリン間で有意差なし |
脳卒中+その他の脳内出血の発生率 | アスピリン群の方が有意に高い |
専門分野内外へ、研究がもたらすインパクト
アスピリンの副作用の立証は、既存の推奨値療法に一石を投じる
この研究は、心血管疾患の一次予防における低用量アスピリンの役割に疑問を投げかける重要な成果を提供します。高齢者における脳卒中のリスクと出血傾向の間のバランスを考慮する際、この研究の結果は医療提供者にとって非常に重要な意味を持ちます。また、健康な高齢者へのアスピリンの一次予防処方の推奨を見直すきっかけとなる可能性があります。低用量アスピリンのリスクと利益のバランスに関するより良い理解は、予防医療の方針や個人的な健康管理の決定に役立つでしょう。
エダンズのエキスパートが、独自の視点で切り込む!
治験を設計する際に意識すべきポイントは?
マリアは、この研究の前提となっているASPREE研究の治験デザインについて、以下の点が優れていると考えています。これらの長所を参考にすることで、より良い治験デザインを作ることができるようになるはずです。
- 大規模なサンプルサイズ: 19,114人の参加者を含むこの大規模な研究は、統計的に有意な結果を導くための十分なデータを提供します。
- 厳密なランダム化プロトコル: 無作為化と二重盲検のアプローチは、バイアスの可能性を最小限に抑え、結果の信頼性を高めます。
- 広範なデータ分析: 虚血性脳卒中と出血性イベントの両方をカバーすることで、アスピリンの影響を包括的に評価しています。
一方で、マリア博士は短所についても指摘しています。皆さんが実験をデザインする際には、以下のような観点が抜けていないかも確認することで、研究の質が落ちることを防げるはずです。
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イベント発生率の低さ:
期待されていたよりも脳卒中と出血イベントの発生が少なかったため、より大きな効果や差を見出すことが難しくなっています。 -
一部の脳卒中の詳細な調査の欠如:
全ての参加者の脳卒中について詳細な調査が行われていないため、研究結果の解釈にある程度の不確実性が生じています。 -
一般化可能性の制限:
研究結果は主に白人の人口に限定されており、さらに、定期的な血圧や脂質管理を受けている人々にのみ適用可能であるため、他の人口群に対する一般化が制限されます。
治験のデザインについては、こちらの記事もあわせてご覧ください。
いかがでしたか?
今回は低用量アスピリンの副作用に関する論文を、エダンズのエキスパートマリア・アナスタシオが解説しました。今後も興味深い研究について発信を続けていきますので、お楽しみに!