エダンズのフィリッパ博士が解説

定量化で新たな分析視点を提供!
食事の健康・環境コストを可視化

Quicktakes エピソード024

食事を取る際には、その食事にいくらかかるのか気になりますよね?しかし、その食事の健康リスクや環境への影響について、金額ベースで考えることは少ないのではないでしょうか。このエピソードでは、食事に隠された健康や生態系に対するコストを分析した最新の研究を、エダンズが誇る栄養学のエキスパート、フィリッパ博士が紹介する様子をお届けします。新しい研究を生み出すための着眼点に関するTipsも必見です!

最新研究をオリジナル動画で解説!

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00:00:オープニング

310:31:食事における健康・環境コストとは

1262:06:最もコスト削減効果が高い食事とは?

2614:21:持続可能な食事を実現するためには?

3055:05:論文を更に魅力的にするためのポイント

エダンズの栄養学者、フィリッパが感銘を受けた最新研究とは?食事の健康・環境への影響をコストで評価!研究の魅力を5分間で語ります。

英語プレゼンの参考に!ネイティブの発音で研究を語る

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解説のポイント

  • 食事に隠された健康・環境コストとは?
  • 金銭価値換算のための斬新な方法論
  • 学際的な最新研究のインパクトは?
  • 優れたデータ分析の在り方とは?

この研究の背景は?

食料消費の「見えにくいコスト」を金銭価値に変換して見える化!

現代社会は、食糧消費の増加とともに、栄養と環境の相互作用による影響を強く受けています。しかし、これらの影響はしばしば見過ごされがちです。そこで注目されるのが、さまざまな食糧の消費が人間の健康と生態系に与える「見えにくいコスト」です。これは、食糧摂取に伴う健康リスクや生態系への影響を金銭的価値に換算したもので、消費者が実感しにくい深刻な問題です。

今回紹介する研究「 Low-carbon diets can reduce global ecological and health costs 」は、101カ国における2018年の食糧摂取量を分析し、様々な食事から生じる環境および人間の健康への負担を明らかにしています。

栄養学分野の研究については、こちらのエピソードもご覧ください!

エキサイティングな研究手法・結果とは?

消費と生産の両観点から見えにくいコストを定量化

この革新的な研究では、101カ国における2018年の食糧摂取データを基に、食糧消費の健康と生態系への影響を分析しています。研究チームは、さまざまな食品の消費に関連する環境および人間の健康への負担を、金銭的価値に換算する手法を用いています。

研究手法の紹介
研究チームは、食品消費に伴う生態系への影響を、オゾン層の変化、粒子状物質の形成、電離放射線などの観点から分析しました。健康への影響という観点では、疾病や死亡リスクを考慮した障害調整生存年数(DALY: Disability-Adjusted Life Years)という指標を使用し、食事が健康に与える影響を統合して評価しています。

食品消費の健康・環境コストは、食品の金額の2倍以上に
「見えにくいコスト」を算出した結果、食品消費の健康コストは8.3兆ドルに上り、生態系へのコストは5.7兆ドルに達するという驚きの事実が明らかになりました。これは、消費者が食品に支払った金額の約二倍以上にあたる額であり、その経済的な影響は計り知れません。

さらに、これらのコストは所得の異なる国々で均等に分配されているわけではなく、例えばアメリカのコストはエチオピアの約6倍になるなど、地域による差異が顕著です。この差は主に食料消費量自体によるものではなく、欧米諸国における動物性食品の消費の多さに起因しています。

この結果を受けて、研究チームは、健康・生態系へのコストが小さい食事はどのようなものであるかも調査しています。調査の結果、ベジタリアンやビーガン食は、肉食品を中心とした食事と比較して、健康・環境コストが約半分になることが明らかになりました。特に、ビーガンの食事は最も効果が高く、世界中の食料生産関連日数を年間2,560万日分、食品消費に関連する日数を年間4990万日分減少させることが判明しています。

専門分野内外へ、研究がもたらすインパクト

学術的価値だけではなく、政策を考える上でも示唆に富んだ研究

この研究は、栄養学・公衆衛生学・環境科学を中心とした学際的な内容となっています。したがって、学術的なインパクトだけでなく、現実世界における応用という観点でもインパクトを残しています。

専門分野内でのインパクト

  1. 公衆衛生と栄養学
    この研究は、食品消費が個人の健康に与える影響を具体的に示し、公衆衛生や栄養学の分野において食生活指導の基盤となり得ます。特に、動物性食品の消費を減らし、植物ベースの食品へのシフトが健康上の利益をもたらすことを示す重要なデータを提供しています。
  2. 環境科学
    生態系への影響を金銭的価値で評価するアプローチは、環境科学の分野において新たな視点をもたらしたと言えます。特に、食糧生産と消費が地球環境に及ぼすコストを定量化することで、環境保全策の策定や政策決定において重要な情報を提供します。

専門分野外でのインパクト

  1. 政策決定者への影響
    この研究は、健康や環境政策において重要な示唆を与えます。特に、食糧政策の策定において、持続可能な食生活への転換を促進する政策の重要性を強調しています。
  2. 一般大衆への啓蒙
    一般読者層も対象としたNature誌系列に掲載されたこの研究は、一般の人々に対して、日々の食生活選択が健康と環境に及ぼす影響についての意識を高める機会を提供しています。食品の選択が個人の健康だけでなく、地球環境にも影響を与えることを認識することは、持続可能な生活様式への移行を促進する上で重要です。
  3. ビジネス界への影響
    食品産業においても、この研究の結果は重要です。持続可能な食品生産と消費の重要性を理解し、環境に優しい生産方法や製品開発に焦点を当てることで、企業はより責任あるビジネスモデルを構築することが可能になります。

総じて、この研究は、食糧消費の健康と環境への影響を明らかにし、持続可能な食生活への転換を促すための重要な一歩となり得るものです。多様な分野に対して影響を及ぼし、今後の研究や政策、実践への道筋を示していると言えるでしょう。


エダンズのエキスパートが、独自の視点で切り込む!

革新的なアプローチと大規模なデータに裏打ちされた信頼性の高さを高評価

この研究は、食糧消費の健康と環境への影響を多角的に分析し、その結果を明快に提示しています。特に以下の点は、他の論文の追随を許さない評価すべき点と言えるでしょう。

  1. 包括的なデータ分析
    この論文は、101カ国における食糧摂取量のデータを用いている点が特筆すべきです。こうした広範なデータは、グローバルな視野での分析を可能にし、より信頼性の高い結論を導くことができます。
  2. 新しい視点の提供
    食品消費の健康コストと生態系へのコストを金銭的価値で評価するアプローチは、新たな視点を提供するものです。これにより、異なる要素を同じ尺度で比較できるようになります。また、専門家だけでなく、一般の読者にも問題の重要性を伝えることができます。

新しい研究アイデアを得る方法については、こちらもご覧ください。

いかがでしたか?

このエピソードでは、食品消費による「見えにくいコスト」について調査した研究を、エダンズのフィリッパ・ガン博士が紹介する様子をお届けしました。今後も興味深い研究について発信していきますのでお楽しみに!

エキスパートが独自の視点で選んだ、エキサイティングな研究をご紹介!

著者
Lucas, E., Guo, M. & Guillén-Gosálbez, G.
出版年
2023
掲載誌
Nature Food

研究者・著者の皆さまを、全力でサポートします

エダンズは、皆様が取り組む研究分野における研究のギャップを見つけだし、論文の校正、最適なジャーナル選択、そして研究の影響力を最大限に高めるためのコンテンツ作成まで、研究の全サイクルで一貫したサポートを提供します。

エダンズ・エキスパートのご紹介

Philippa Gunn(フィリッパ・ガン)

医学博士。12年以上にわたってヒトの健康に関する研究を行い、特に運動、栄養、クロノバイオロジー、生物医学、バイオテクノロジーの観点から代謝を分析することに関心を持つ。医学博士号取得後は、非アルコール性脂肪性肝疾患の発症における脂肪酸代謝への遺伝子と栄養素の相互作用の影響についての研究に従事したほか、直近では細胞農業の分野で脂肪細胞分化の最適化に携わった。細胞培養や分子生物学、介入研究とその臨床評価、オミックス技術と質量分析、食事摂取と大規模データセット分析など、幅広い方法論を得意とする。

他のエキスパートのコメント

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ティナ・ティン博士

食生活が人間の健康だけでなく、地球の健康にも関係していることを知り、とても驚きました。このような研究結果が主流になるにつれ、「野菜を食べることは体にも地球にもいい」というような面白いスローガンが、親や子供たちの口から出てくることが想像できますね。

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ピーター・ミロヴァノヴィッチ博士

食べ物の隠れたコストについてを知って戦慄しましたが、これは素晴らしい研究と言えます。個人的にはさらなる研究に向けた、フィリパのコメントが好きです。生産者側、消費者側のいずれにおいても、急激な変化を加えることはまったく現実的でなく、微細な変化が与える影響を考慮することが理にかなっていると私も思います。加えて、このような変化が労働市場にどのような影響を与えるか、さらに食生活を変えるための環境(例えば、海域によっては魚がほとんど絶滅している場合もあります)も考慮する必要があると思います。とはいえ、この研究はスマートな方法で行われ、包括性もあり、食品消費の負の側面についての認識を高めてくれる質の高い研究です。

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