エダンズのティナ博士が解説

政策の影響力を評価する方法とは?
自然多様性を保護する
海洋政策の効果を検証

Quicktakes エピソード037

生物多様性の喪失は現代における最も切迫した環境問題の一つであり、その深刻さは日増しに高まっています。それに伴い、生物多様性を保護することの重要性も増していますが、ある保護施策が有効かどうかを判断するのには困難が伴います。

このエピソードでは、サメ・エイを保護するための政策の効果を検証した最新の論文を、エダンズが誇る環境・健康科学のエキスパート、ティナ博士が紹介する様子をお届けします!

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00:00:生物の多様性損失を保護するための研究の紹介

631:20:絶滅の危機に瀕するサメ・エイの特徴

1662:07:政策を評価する際の方法論

1953:09:漁業管理政策が生態系保護に与える影響とは?

政策はどのように評価するのか?漁業管理政策がサメとエイの生態保護に与える影響を検証した最新の研究をご紹介!

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解説のポイント

  • 絶滅の危機に瀕するサメ・エイの特徴
  • 漁業管理政策が生態系保護に与える影響
  • 政策のような効果発現の長期化が見込まれる介入の評価方法
  • 生物多様性を保護するために考えられるアプローチ

この研究の背景は?

生物多様性が減少する現代において求められる保護施策効果の検証可能性

生物多様性の喪失は現代における最も切迫した環境問題の一つであり、その深刻さは日増しに高まっています。特に、海洋生態系においては、サメやエイなどの頂点捕食者の数の減少が、生態系全体のバランスに重大な影響を及ぼすことが懸念されています。

サメやエイは長い寿命を持つものの、自然な個体数の増加率が低いために乱獲による影響を受けやすいことで、数を減らしています。過去半世紀にわたり、世界中の外洋で生息するサメとエイの数は71%も減少し、沿岸部に生息する約600種のサメとエイのうち半数が絶滅の危機に瀕していると報告されています。

このように生物多様性の損失が進行している現状では、単に状況の悪化を報告するだけではなく、具体的な解決策や改善策を模索し、提案することが求められています。

このような背景を受け、PNASに掲載された論文「Conservation successes and challenges for wide-ranging sharks and rays」は、生物多様性の損失を逆転させる可能性を秘めた大規模な自然実験の成果を報告しています。

エキサイティングな研究手法・結果とは?

政策の効果を検証するための方法論

本研究では、サメとエイの個体数に対する漁業管理計画の影響を評価するために、独特な実験デザインが用いられました。この実験デザインは、ビフォー・アフター・インパクトコントロール(BAICまたはBACI)と呼ばれ、特定の介入前後の状態を比較し、その影響を評価するために設計されています。

具体的には、1993年に西大西洋で導入されたサメ漁業管理計画の前後で、サメの個体数の傾向を分析しました。この管理計画では、特定のサメ種の捕獲が許可され、漁獲量の報告が義務付けられていた一方、その他の地域では、漁業活動の量(漁業暴露)や管理措置の種類に違いがあり、一部の地域では管理計画がまったくないこともありました。

この研究では、これらの政策の差異に着目し、西大西洋沿岸の他の地域のサメ個体数と比較することで、管理計画の影響をさらに検証しました。

漁業管理政策が生物多様性の保護に寄与することが判明

研究の結果、1993年以前に減少傾向にあった11種のサメのうち、9種では管理計画実施後に減少が見られなくなり、さらに6種では個体数が緩やかに増加に転じることが確認されました。このことは、強力な漁業管理がサメの個体数減少を阻止し、さらには回復へと導く可能性があることを示しています。また、漁業暴露が高い地域では絶滅リスクが高まるが、強力な漁業管理によってそのリスクを相殺し、中程度の漁業暴露でも絶滅リスクを低減できることが示されました。

専門分野内外へ、研究がもたらすインパクト

海洋政策や実務レベルに与えるインパクトの大きい研究

この研究の成果は、専門分野内外において多大なインパクトを与える可能性があります。まず、海洋生物学や保全生物学といった専門分野においては、生物多様性の損失を逆転させるための具体的な方法論として重要な指針を提供します。

また、海洋政策を考える実務者や政策立案者にとっても、強力な漁業管理が特定のサメ種の個体数回復に寄与できることを実証したこの研究は、保全政策の策定において科学的根拠に基づいたアプローチをとることの重要性を強調するレファレンスとして活躍するはずです。このようなエビデンスに基づく政策は、絶滅の危機に瀕している他の海洋生物種の保全にも適用可能であり、生物多様性の保全と持続可能な漁業の実現に向けた取り組みに貢献するでしょう。


エダンズのエキスパートが、独自の視点で切り込む!

この研究論文の構成とテクニックは、科学コミュニケーションにおける効果的なストーリーテリングの優れた例となっています。 (ティナ博士が説明する分かりやすい論文を書くためのコツについても、あわせてご覧ください。)

特に注目すべきは、複雑なデータと分析結果を視覚的にわかりやすく表現した点です。研究結果を地図、色分け、ロリポップチャートを用いて示すことで、読者が主要な発見を直感的に理解できるようになっています。このような視覚的表現は、科学的な情報を非専門家にも伝える際に非常に効果的であり、学術論文の理解を促進します。

また、ビフォー・アフター・インパクトコントロール実験デザインの適用により、保護施策の効果を客観的に評価するための強固な枠組みを提供しています。一般的にこの種の実験をデザインするにあたっては、以下のプロセスで評価を行います。

  1. 類似した条件/特徴を持つサンプルを2つ以上用意する
  2. そのうちのサンプル1つに特定の処置を施す
  3. 処置を施したサンプルとその他のサンプルの状態を比較する

いかがでしたか?このエピソードでは、サメ・エイを保護するための政策の効果を検証した最新の論文を、エダンズが誇る環境・健康科学のエキスパート、ティナ博士が紹介する様子をお届けしました。今後も興味深い研究について発信を続けていきますので、お楽しみに! ライターとしても定評のティナ博士による、その他のエピソードもあわせてご覧ください。

エキスパートが独自の視点で選んだ、エキサイティングな研究をご紹介!

著者
Pacoureau et al.
出版年
2023
掲載誌
PNAS

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エダンズは、皆様が取り組む研究分野における研究のギャップを見つけだし、論文の校正、最適なジャーナル選択、そして研究の影響力を最大限に高めるためのコンテンツ作成まで、研究の全サイクルで一貫したサポートを提供します。

エダンズ・エキスパートのご紹介

Tina Tin(ティナ・ティン)

海氷地球物理学博士。南極でのフィールドワークと統計解析、海氷モデリングを組み合わせて海氷の形態と動態を探求し、気候システムにおける雪氷圏の役割の理解に貢献した。ヨーロッパとカナダで気候変動の影響を調査する研究チームを統括し、政策立案者向けの報告書を作成した経験を持つ。これまで60本以上の技術論文を発表し、うち15本は査読付き学術誌に掲載されたほか、気候変動と環境科学・管理に関する2冊の本を共同編集・共著している。International Journal of Wildernessのアソシエイト・エディターであり、European Association of Science Editorsのメンバー、Polar Research誌の特集号のゲストエディターでもある。Journal of Environmental ManagementやAustralian Antarctic Science Programを含む国際的な助成団体の査読者を務めるなど査読経験も豊富。

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