台風・熱帯性低気圧による被害を整理する最新研究

システマティックレビューは
絞り込みがカギ!

Quicktakes エピソード014

近年、夏になると大型熱帯性低気圧が頻発し、多くの国が台風に見舞われています。 特に地球温暖化の影響も重なり、様々な災害を引き起こす台風やハリケーンに対する関心は高まっており、研究も盛んに行われています。 この記事では、台風や熱帯性低気圧が都市や市街地の樹木に及ぼす影響に関する興味深いレビュー論文を、エダンズの誇る気候変研究のエキスパート、ティナが紹介する様子をお届けします。システマティックレビューを書くためのTipsも必見です!

最新研究をオリジナル動画で解説!

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00:00:オープニング

280:28:導入

701:10:研究の方法論

1222:02:研究の結果

1692:49:研究結果が与えるインパクト

台風・熱帯性低気圧による被害を整理!最新システマティックレビューを専門家が解説
この動画では、ティナ博士が近年頻発する台風や熱帯低気圧による倒木被害を研究した論文を紹介します。論文の内容に加え、システマティックレビューを執筆する際のコツにもご期待ください。

英語プレゼンの参考に!ネイティブの発音で研究を語る

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研究の要点+エキスパートTIPSで深掘り理解

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解説のポイント

  • 熱帯性低気圧による樹木の影響
  • レビュー論文とは何か
  • レビュー論文の具体的なスクリーニング方法
  • システマティックレビューを書くためのコツ
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この研究の背景は?

熱帯性低気圧の研究は最もホットなトピック。ゆえに、現状整理が必要

台風あるいはより広い意味で熱帯性低気圧は、地滑りや洪水を引き起こし、都市のインフラや樹木の倒壊を引き起こすことが知られています。気候変動への意識の高まりも加わり、近年では、熱帯性低気圧による被害の推定を試みる研究への関心が高まり、非常に多くの論文が出版されています。(温暖化の研究についてはこちらもご覧ください)

そこで、今回ご紹介する論文「 Predictors of tropical cyclone-induced urban tree failure: an international scoping review 」は、レビュー論文という形で、熱帯性低気圧による樹木への被害に関する研究の現状を整理することを試みているのです。

エキサイティングな研究手法・結果とは?

システマティックレビューのスクリーニング手法は?

このレビュー論文は、システマティックレビューとメタアナリシスのアプローチを取っています。優れたレビュー論文を書くには、その分野の徹底した理解はもちろん、分析結果の統合やデータベースの検索など、特定のスキルを必要とします。

システマティックレビューとメタアナリシスについては、こちらの記事もご覧ください。

その意味で、この論文の執筆にあたった研究者は13人にのぼり、対象とするデータベースも130と、申し分のない規模となっています。研究チームは、これらのデータベースから、以下の条件で絞り込みを行っています。

  • 熱帯性低気圧と都市樹木の被害に関する研究である
  • 日本語、英語、中国語をはじめとした6言語で書かれている
  • 太平洋・大西洋・インド洋で生じた熱帯性低気圧に関するものである
  • 統計的分析を行っている
  • 査読付きの論文または学位論文である

その結果、5,000件あった研究対象候補は13件まで絞り込まれ、そこから詳細な分析が開始されています。

熱帯性低気圧を巡る研究のトレンドは?

このレビューからは、樹木の大きさが台風や熱帯性低気圧による被害の規模を決定づける要因として最も頻繁に分析されていることが明らかになりました。例えば、日本の京都の神社の樹木を調査した研究では、背が高く細い樹木が被害を受けやすく、密集している樹木は被害を受けにくいことが示されています。

​また、興味深いことに、研究を行っている国によって研究の主眼が異なることも見えてきました。例えば、アメリカの研究者たちは、ハリケーン後に片付けが必要な樹木の残骸の量を推定することに焦点を当てていた一方、中国の研究者たちは、被害を受けた樹木の回復状況のモニタリングに重点を置いていました。

結果をまとめると…

  • 樹木の大きさが最も分析されているファクター
  • 背が高く細いと樹木被害は拡大
  • 密集していると樹木被害は減少

専門分野内外へ、研究がもたらすインパクト

レビュー論文は今後の研究の在り方に大きな影響を与える

レビュー研究は、その分野のレファレンスとして今後何年にもわたって参照され続ける傾向があります。したがって、大きなインパクトを残しやすいのです。

今回の研究は、今後どのようなインパクトを残すのでしょうか?

ティナは、「今後の研究の方向性を決定するために、このレビュー論文が重要な示唆を与えるだろう」と考えているようです。また、熱帯性低気圧の樹木被害に関する研究、あるいはより広く熱帯性低気圧に関する研究のトレンドに焦点を当てる際や、熱帯性低気圧による被害状況を推定するモデルを構築する際にも役立つと語っています。

今後拡大が予想される熱帯性低気圧の被害を最小限に抑えるためにも、期待が高まりますね。​


エダンズのエキスパートが、独自の視点で切り込む!

レビュー論文はスコープの設定と絞り込みが大切

この研究に関して、ティナはシステマティック論文を書く上のプロセスが重要であることを伝えています。具体的には、リサーチクエスチョンの範囲(今回の研究は熱帯性低気圧による都市樹木の影響)を明確に設定し、それを基に複数の要件を設定して絞り込みを行っていくことです。これを徹底することができれば、優れたレビュー論文への第一歩となります。

いかがでしたか?

今回は台風や熱帯性低気圧が都市や市街地の樹木に及ぼす影響に関するレビュー論文を、エダンズのエキスパート、ティナ・ティンが解説しました。今後も興味深い研究について発信を続けていきますので、お楽しみに!

ライターとしても定評のティナによる、その他のエピソードもあわせてご覧ください。

エキスパートが独自の視点で選んだ、エキサイティングな研究をご紹介!

著者
Salisbury et al.
出版年
2023
掲載誌
Frontiers in Forests and Global Change

研究者・著者の皆さまを、全力でサポートします

エダンズは、皆様が取り組む研究分野における研究のギャップを見つけだし、論文の校正、最適なジャーナル選択、そして研究の影響力を最大限に高めるためのコンテンツ作成まで、研究の全サイクルで一貫したサポートを提供します。

エダンズ・エキスパートのご紹介

Tina Tin(ティナ・ティン)

海氷地球物理学博士。南極でのフィールドワークと統計解析、海氷モデリングを組み合わせて海氷の形態と動態を探求し、気候システムにおける雪氷圏の役割の理解に貢献した。ヨーロッパとカナダで気候変動の影響を調査する研究チームを統括し、政策立案者向けの報告書を作成した経験を持つ。これまで60本以上の技術論文を発表し、うち15本は査読付き学術誌に掲載されたほか、気候変動と環境科学・管理に関する2冊の本を共同編集・共著している。International Journal of Wildernessのアソシエイト・エディターであり、European Association of Science Editorsのメンバー、Polar Research誌の特集号のゲストエディターでもある。Journal of Environmental ManagementやAustralian Antarctic Science Programを含む国際的な助成団体の査読者を務めるなど査読経験も豊富。

他のエキスパートのコメント

Expert Photo

フィリッパ・ガン博士

多くの議論のポイントを示す注目すべき論文ですね。写真に基づく測定方法は客観的な評価手法としては優れていますが、一時的な感情のみを測定し、特定の人口統計に対する選択バイアスが生じる可能性があります。複数の研究から比較や結論を導き出す際の困難を避けるために、より長期的で包括的な客観的測定方法がどのように開発され得るのか、興味深い問題です。

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